第2話「僕が頑張らないと」

 僕は持病が多い。そのため、外出することはほぼないし、最近は病院の庭に車椅子で行くことくらいしかない。でも僕にとってはそれが普通。小学生の時も、中学生の時も、高校生になってもそうだ。みんなの普通とは違うのはちょっぴり悲しいけどね。


「気持ちで負けちゃだめだな!病は気から、もっと頑張らないと。」


 そんなとき、莉菜の母からメールが来た。なにかと思って開いてみると、僕は衝撃を受けた。


『休みの日にごめんね。状況はまだよくわかっていないんだけど、莉菜が今朝、車に轢かれてしまって、救急車で運ばれたの。多分優くんが入院している病院でね、私も正直パニック状態なんだけど、とりあえず命に別条はないらしいからそれは安心して。怪我の具合

 とかは後で伝えるから、とにかく優くんも体調気をつけてね。』


 思わず僕は目を見開き、さっきまで押してもらっていた車椅子を自力で動かす。自力で動かずにはタイヤを手動で回すしかない。もちろんスムーズに進むわけもなく、僕は何も考えずに車椅子から立って走る。少し走っただけでもどんどん息があがり、しばらく歩いていないせいで何度も転ぶ。心臓が痛くなってくる。それでも僕は右手で心臓を抑えながら、手すりや壁を使ってどうにか前に進む。

 結局僕は通りかかった看護師に見つかって連れ去られる。


「何やってるんですか!戻りますよ!」

「いやだ..!いやだ!行くんだ..!」

「そんな事言われても...!」

「離せ..離せ!!」


 結局僕は無理に動いたせいで病気が悪化し、数時間の処置を受けた。

 今さっきようやく立ち上がれるようになったところだ。

 ベットには沢山の汗を吸収した跡が残っていて、まだ少し寒さを感じる。

 ご飯も食べれなかったし、そろそろ食べよう。そう思って立ち上がったときだった。


「こんにちは優くん。」


 病室の開きっぱなしの扉から入ってきたのは、莉菜のお母さんと、頭や腕に包帯を巻いている莉菜だった。

 僕は驚きと安心と心配と、あとはよくわからないけど様々な気持ちが僕の中に流れて混乱する。

我慢していた涙も、自分を制御していた糸がブツンと切れてしまったかのように溢れてくる。


「莉菜…莉菜…!」


 僕は何度も何度も名前を呼ぶ。莉菜は平然としていて、ただ僕を見つめる。


「莉菜のために無理しちゃったんだって?大丈夫。命に別状はないって言ったでしょ。」


 普段元気な莉菜のお母さんは、珍しく落ち着いた優しい声を発している。

 その悲しさと安心が混ざった声を聞いて、余計涙が流れる。


「でもね...」


 莉菜のお母さんの話を遮り、僕は莉菜に話しかける。


「莉菜、大丈夫だった?どこか痛い?ご飯は食べた?一緒に食べよ?」


 僕が投げた数個の質問は、すべて回答は返ってこず、その代わりに一つの質問が返ってきた。


「──あなたは、誰?」

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