失礼な同乗者達

 ざわざわ……

  ピ……パシャ



 スマホを向けてきた奴を軽く睨む。


 これで何度目だろうか。いつもと周りの視線が明らかに違う。





 今日はいつもより大分早く帰路についた。

 ここ最近休みがちだったし、大荷物ということもある。


 なんせ数日分のオムツとロンパース。それに粉ミルクと、おもちゃ数点である。

 流石にこの量はやや重い。







 流石に、ロンパース姿で社外に出る一歩目は躊躇った。

 恥ずかしかった。



 だが、これは大人の格好であり、自ら実験すると言ったのだ。

 

 一歩でてしまえば、楽になった。

 所詮夢なのだが、長い……


(あれ、ロンパースは恥ずかしい? うん?)


 今日は何度も、自分の感覚に矛盾を感じてしまう。

 だめね。まだ眠いのかも。

 


 スマホは向かい側の席に座っている二人連れの中学生とおぼしき少女だった。


 まぁ、新しいファッションだししょうがないのかな。

 でも断りもなく撮影は失礼だろう。






 そう言えば、尿意もそろそろ我慢しなくてもいいか。

 社内で交換実習の為に二度ほど漏らしてから、一度も漏らしていなかった。



 しかし、ただ出すのは難しい。

 オムツをしているのに、どういうわけか中々出ないのだ。


 イヤホンを取り出し、事前に処方箋に含まれていた音声ファイルを再生する。




『チッチが上手……チッチが上手……チッチが上手……』


 オシッコが出ようとしているのを感じる。

 だが、座席に座っている今の状態では、どうにも抵抗があった。


 立ち上がる。

 それだけで周りが私に注目……更に注目した。

 スマホを向ける手が増える。一々睨んでいられる人数ではない。


 座席のポールに手を付き、呼吸を整え、音声と同じ言葉を小声で反復する。


「チッチが上手……チッチが上手……チッチが上手……」


 


 


 まもなく、股間から小川のせせらぎのような音が小さく聞こえてくる。

 前へ、後ろへ、あたたかい小川だ。


 思わず手が股間を抑えてしまう。

 どうにも、やってはならない事をしている気がしてならない。




 ……おっと、まもなく降りるんだ。

 先にオムツの用意しておこう。



 大きな袋の中でパッケージを破き、一枚取り出す。


   ザワッ



 


 まただ。

 病院の処方箋の何が珍しいのか。


 駅についたらトイレに入らないと。

 混んでなければいいな。

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