現実?なのにこの格好……

 いつも通り快眠。素晴らしいほどの目覚め。

 ただし……なんともいえない不快な感触が股間に感じられた。

 それは、ジクジクしたような、冷たいとも生暖かいとも思えるような、いやな感触だった。


 恐る恐る布団の中を手で確かめて回る。


 ……何事もない。ではこの感覚は一体。


 と、ふと股間周りに手が触れて、その寝巻きではあり得ない感触の柔らかさ……しかし知っているそれを感じた。





 博子は上半身をガバッと起こすと、自分の下腹部に視線を遣った。

 この夢を見始めてから、いつかやってしまう気がしていた。

 その日がきてしまったのかと焦った。


 きてしまった。ついにやってしまった。


 だが思ったのとは違った。



 おねしょしていた。

 ただし、いつもと決定的に違う点は失敗だけではなかった。


 『夢の中で着せられた』はずの、"黄緑色のクローバーを散りばめたロンパース"を着ているのだ。



「いやぁ!」




 思わず布団をかぶる。

 

 ――なんで? なんでこんな格好してるの?




 夢の中ではなかったのか?

 あれが現実だったら……私は、あの医者に?





 目を開け、部屋を見渡す。

 いつもと違うところにスーツを見つけた。


 ……ただし、どうみても洗濯屋に出したかのような状態。





 無我夢中でロンパースを脱ぐ。



 構造が分からない……


 ボタンなど丁寧に外すのももどかしく、股間部を糸ごと引きちぎった。


 背中側にボタンがついていることに気づいた。

 手を回しても、感触が見つからない。


 勢いよく机からハサミを取り出し、脇から切り裂いて、無理やり引き剥がした。

 続いて紙オムツにもハサミを入れる。


 薄いピンク地に熊が描かれているが、知ったことではない。

 給水帯から液体が漏れ出す。


 これが自分のオシッコだと気づくと、勢いよく壁に投げつけてしまった。

 

 

(私は……一体何を……)



 記憶をたどる……思い出せない。

 病院に行ったのだったか……出勤したのだったか、学生時代のオムツの記憶が挟まったような気もする。





 ――思い出せない。





(ここ何日も出勤していない……今日は行かないと)



 全く覚えのない洗濯屋帰りらしきスーツは避けたい。


 スーツは何着かもっている。

 社長なのにリクルートみたいなスーツはどうなのかと言われたが、私はこれが好きだった。



 せめてもと会社でデザインされた、胸元を少し開いたり、すこしフリルがついたりとする、しかしシックな大人向けのスーツだった。

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