第2話 物置小屋の生活

「コラッ! 何やってんだ!」


妹が卵かけごはんに醤油をかけようとして落として溢してしまった。

それを見て激怒した伯父さんが妹に手を上げて叩こうとしてくる。


(バシッ!)


間一髪、僕は妹を抱え込んで庇った。

もの凄く痛いけど、まだ小さい妹の真由子が叩かれるよりはいい。


「お、おにいちゃん!」

「しいっ! 静かにするんだ……」


僕は怯える妹を抱え込んだまま小声で静かにする様に言い、直ぐに妹を放して伯父さんに頭を下げた。


「伯父さん、妹がすみませんでした!」


「てめえらぁ! 無駄飯食らいの癖に生意気な!」


庇われたのが気に入らなかったのか、今度は僕に向けて蹴りが飛んでくる。


(ドガッ!)


なんとか頭はガードしたけど何回転かして食卓の奥まで転がる。

少し口を切ったみたいで鈍い味が広がってゆく。


「お前ら、今日は一日飯抜きだからな!」

「……はい」

「……」


伯父が怒った時に良くそうするように僕達に言う。

伯母は我関せずという様に無関心を貫いていた。



ーーーーー



その後、食事を許されない僕達は自分達の部屋である物置小屋に戻った。


「おにいちゃん、だいじょうぶ?」

「ああ。大丈夫だよ。真由子が叩かれないで済んで良かったよ」


僕は妹を安心させる様に頭を撫で、少し血が滲んだ唇で微笑む。


すきま風が入ってきているみたいで、小屋の扉に手を当てると少し風を感じる。

これから寒くなるので妹の為にもせめて家の中に入れてもらえないか、また今度伯父さんに必死に頼んでみようと思う。


「ごめんなさい。わたしがおしょうゆ、こぼしたから……」

「いいんだよ。真由子は何があっても僕が必ず守るからね」


そう言って僕は妹を抱き締め、隠してあった食パンの最後の一枚を取り出して妹に食べさせる。


僕は両親が死んだ時に誓ったんだ。

もう絶対に泣かない。

何があろうとも僕が真由子を守って幸せにするって。


「おにいちゃんのは?」

「僕はさっき食べたからね」


僕は腹の虫が鳴らない様にお腹に少し力を入れながら、にっこりと答えた。

本当は食べる前だったんだけどね……



ーーーーー



その後、僕は妹と小学校に向かう。


妹の背負うランドセルは黒い色で、僕は友達に貰ったエコバックを手に持つ。

何故かと言うと妹のランドセルは伯父さんに買ってもらえなかったので、代わりに僕のランドセルを妹にあげたからだった。


流石に入学の時に皆が持っているランドセルが自分だけ無いのはつらい。

妹は黒い色でも嬉しそうだったけど、いつかは僕が赤やピンクの女の子らしいランドセルを買ってあげたいと思ってる。


登校後、僕は今日の夕ご飯をどうしようか考えた。

給食費は何とか払って貰えているからお昼ご飯は食べられるけど、今日はご飯抜きだと言われてしまったので、夕ご飯の為に家に入ると怒られてしまうだろう。

でも妹がお腹を空かせるとかわいそうなので何か食べさせてあげたい。


考えた末、僕は自分の給食のパンを食べずに取っておく事にした。


そして給食の時間、お腹が空いていたのでパン以外はあっけなく食べ終わってしまったけど、まだまだお腹が空いているみたい。

僕はそれを誤魔化すため机にうつ伏せになっていた。


「これ食べなよ。また、ご飯抜きにされたの?」


そう言ってクラスメイトの戸田晴臣とだはるおみくんが僕にパンを半分くれた。


僕は引き取られた後も同じ小学校に通っているので以前からの知り合いも多い。

みんな僕に同情的で僕がボロボロの格好をしていても、エコバックで通っていても誰も虐めてくる子はいなかった。


むしろ、要らなくなった鉛筆や消しゴム、余っているノートなどを僕にくれたりする優しく暖かいクラスメイトばかりだった。

もらった物は妹と共同でありがたく使わせてもらっていた。


中でも晴臣くんは僕の親友と言っても良く、いつも僕と妹を助けてくれるんだ。

たまに妹と一緒に晴臣くんの家にお邪魔してお菓子をもらったりもしている。

新聞配達の件も晴臣くんと考えたもので、いずれ貯まったお金で妹のランドセルを買おうという作戦になっていた。


「晴臣くん……ありがとう。凄く美味しいよ……」


僕はありがたくて、涙を流しながらパンを食べた。

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