第3話 出前での失敗

学校が終わったら僕は妹と下校し、それから物置小屋に妹を置いて伯父さんの中華店の手伝いをする。


僕が料理を出来るわけでもないけど、テーブルを拭いたり食器を下げたり、お客さんにお水やおしぼりを出したりする係だ。


夕方の少し忙しくなった頃、僕は伯父さんに出前を頼まれた。


「四丁目の石田さんのところだ。前に一緒に行ったことがあるだろ? 急いで行って来い! あのジジイは遅れると口うるさいからな!」


「は、はい。分かりました!」


僕は自転車も持っていないし乗れないので出前用のカゴを手に持って店を出る。

ふう、僕でも何とか持てる重さで良かった。


そして石田さんの家の近くの公園まで差し掛かったところ、公園のベンチで倒れているお爺さんが見えた。


このままじゃいけない!

僕は急いでお爺さんのところまで行き、大声でお爺さんに話し掛けた。


「どうしたんですか!! 大丈夫ですか!」

「……く、薬を……」


お爺さんは胸を苦しそうにしながら懐を指している。

僕がお爺さんの懐をまさぐると、小瓶に入れられた薬を発見した。


「薬ってこれですか?」


お爺さんは微かに首を縦に振っている。

あとはお水……自動販売機がある!


僕は緊急用に持っているお金を取り出して自動販売機で水を買った。

そしてお爺さんに口を開けさせて薬を入れ、ペットボトルの蓋を開けてゆっくりと口に流し込んだ。


その後、お爺さんは落ち着いたみたいだったけど、まだ目をつぶってまだ苦しそうにしていたので、僕は背中をさすり続けた。



ーーーーー



「君がワシに薬を飲ませてくれたのか?」

「えっと、はい。苦しそうにしていたので……」


やっとお爺さんが目を開けたけど、僕を見て少し驚いた様に問いかけられた。

僕の顔を正面からじっと見つめている。


「そうか、ありがとう。ワシは心臓を悪くしていてな。失礼だが君の名前は?」

「僕は吉井浩人と言います」


「浩人!……だが吉井か。いや、すまん。少し人を探していてな。何にせよ助かった。是非、君にお礼をしたいんじゃが……」


お爺さんがビックリした後、少しすまなそうにそう言った。

その瞬間、僕は大事な事を思いだした!


「ああっ! しまった、出前を忘れてた! それじゃ僕はこれで!」

「えっ……」


僕は何かを言おうとしたお爺さんに手を振って強引に別れ、急いで出前用のカゴを持って石田さん家を目指した。


出発からかなり時間が経ってしまった……

これはやっぱり怒られるかなあ。



ーーーーー



「この馬鹿野郎! 石田さんから物凄い苦情が来たぞ、麺がのびて凄く冷めていたってな! 出前に出てから、一体何をしていやがった!」


激怒した伯父さんの蹴りが、僕のお腹に突き刺さる。

僕はそれを受けて胃液を吐きながら激痛でのたうちまわった。


「ぐあっ! す、すみません……でした……」


お爺さんを助けていたからだけど、何処の誰かも知らない人だから、きっと正直に言っても信じてもらえないだろうな……


僕は伯父さんに叩かれながら、とにかく謝り続けた。

でも伯父さんからは三日間の食事抜きを言い渡されてしまったんだ。



ーーーーー



「……という訳なんだ。ごめんね、真由子」


僕は妹の真由子に理由を話し、食事が三日間も抜きになる事を伝えた。


「ううん。私はだいじょうぶ」

「でもね、今日はこれがあるんだ」


僕は取っておいた給食のパンを取り出した。


「給食のパン!」

「そうだよ。給食の時、晴臣君がくれたんだ。はい、真由子はこれを食べてね」


「おにいちゃんの分は?」

「僕はあまりお腹が空いてないんだ。食べちゃっていいよ」


一生懸命にパンに齧りつく妹を見て愛おしさが湧いてくる。

お父さん、お母さん、真由子は僕が守って必ず幸せにしてみせるからね。

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