第25話 横取り40万!!
「すまないな、君には囮になってもらった。」
屋敷の屋根の上からフワッと俺の側に下りてきた。どこへ行ったのかと思いきや、隠れて機会を窺ってやがったとは! 勇者である俺をおとりに使うとはいい度胸だ! やっぱコイツとは仲良くなれそうにない。弟君とはキャラが違うが接しにくい相手だ。
「今のは我が一門の最高峰の魔術、スター・バーストだ。星が消滅する際の膨大なエネルギーを魔術で再現したものだ。魔王とはいえ、これを喰らっては只では済むまい。」
何が最高峰だ! 聞いてねーよ! 危うく俺まで巻き込まれるところだったじゃないか! ていうか、あわよくば俺ごと消すつもりだったんじゃなかろうな? そして、そのまま俺の前を通り過ぎ、エルが隠れている植え込みの元へと歩いて行く。
「もう大丈夫だ。出てきなさい。私が脅威を打ち払った。」
「……本当に?」
植え込みの影からひょこっとエルが顔を出す。なんか……かわいいな。そんな仕草をするとは。やっぱりこのときはまだ子供っぽいところが残っていたんだな。
「あなたは何者なんですか?」
「私は……将来の君の婚約者さ。モンブラン一門の者だ。君も魔術師なら我が家名ぐらいは聞いたことがあるだろう?」
や、やりやがった! 過去のエルに婚約者を名乗りやがった! てことは、マズい。この行為はエル本人の過去の記憶を改竄する事を意味する! 禁断の手段を使いやがった!
「も、もるげあーっ!」
「……フッ、悪く思うなよ。君のような輩からエレオノーラを取り戻すためなら、私は手段を選ばない。彼女を傷付けない限りはどんな方法でも使ってみせる。今回の件は想定外の事態だが、便乗してうまく利用させてもらう!」
なんてヤツだ! これじゃ火事場泥棒みたいじゃないか! 油断も隙もねえ! 言って罵ってやりたいのに、しゃべることは出来ない。くやしい!
「君はエレオノーラのような高貴な女性に釣り合っているとは思えない。女性という者は“白馬に乗った王子”に助けてもらうことを夢見ているものだ。君は果たして、その条件を満たしていると言えるのか? 否。君には気品というものが足りない。例えどれだけ戦いに強くとも、君はその条件を満たしているとは到底思えないのだよ。」
「もんぎ!」
物凄い嫌なことを言われているが、奇声を発することでしか、それに抗議できない。せめてしゃべることが出来れば言い返してやれるのに!
「……王子様?」
エルはラヴァンの顔を見上げつぶやいた。
「ああ、そうだよ。君の王子様になることをここに誓おう!」
エルはラヴァンに抱きついた。すがりつくように! ガガーン! 大ショックだ! 俺以外の男にそんなことするだなんて! エルの本体じゃないから、まだ望みはあるが、実際にこんなシーンを目の当たりにすると精神へのダメージが凄い。さすがにグサッとくる。
「必ずエレオノーラの心を掴んでみせる。これが君への宣戦布告だ! また会おう!」
ラヴァンはエルと共に空間に作った裂け目の中へと入っていった。俺だけが取り残された。
「ホホホ。面白い事になってきたわね。」
その声で俺は我に返った。魔王の声だ。やっぱりさっきの攻撃では死んでいなかった。声のする方を見ると、エルの従姉妹がそこにいた。もしかしたら、意識をあの子に移して難を逃れたのかもしれない。
「とんだ邪魔者だと思っていたら、なかなか楽しいことをしてくれたわね、あのお坊ちゃん。折角だから便乗して利用させてもらおうかしら? 彼自身が私の行為を利用したようにね。」
ラヴァンを利用するつもりか? 厄介だな。ヤツは嫌いだが、命を取りたいとまでは思っていない。悪人ではないだろうから。あくまで俺の勘でそう思うだけだが。だからこそ巻き込むわけにはいかない。阻止しなくては。
「ホホホ。では別の時代で会いましょう。あなたとあのお坊ちゃん、どちらが先にエレオノーラの本体にたどり着けるのでしょうね? 楽しくなってきたわ!」
魔王は姿を消した。こんどこそ本当に俺だけが取り残された。俺も早くエルの本体を探さなきゃいけない! ……ん? ナニコレ? 紙切れが落ちている。さっきまでなかったのに?
“なかなか美味な前菜だった! 素晴らしいね! メインディッシュがこれから楽しみだよ、……シャロット?”
意味がわからない。誰だこんなイタズラをしたヤツは? くだらないけど、なんだろう? 妙な寒気がするな。なんでだろう?
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