第17話
ラソが始まったのは日が沈んだ頃だった。一族の皆で準備をした料理が広場に設置された机の上に並べられている。
七面鳥を丸々焼いた料理や獲れたての新鮮な魚を使った煮物、瑞々しい果物が美しく切り飾られている。
族長であるブレイブの掛け声を合図に皆思い思いに食事を始めた。
アニーサは友達らしき人物と楽しげに会話をしていて、サーラに野菜の下処理方法を教えてくれたシュトルツ族の女性達は自分達の家族と共に食事をしている。
(皆、楽しそうね)
サーラはシュトルツ族に嫁いで間もないので仲良くなった人はいない。ラソの時も共に過ごすような人はいないと頭では分かっていた。
全て承知の上でラソに参加したいと言ったのだが、現実を目の当たりにすると寂しさを感じずにはいられなかった。
アニーサを呼び戻す事は立場上許されるだろうが、ほとんどサーラに付きっきりで世話をしてくれているアニーサの一時を邪魔したくない。
サーラはシュトルツ族の家庭料理に舌鼓を打ちながら一人で黙々と食事をしていた。
そんな時だった。突然、隣に男が座った。驚いて男の方を見るとブレイブがいる。
「今日は皆とラソの準備をしていたな」
「ええ、でも料理はからっきしだから足手まといだったわ」
ブレイブの優しげな声音にサーラの心が温かくなる。彼は心から面白そうに笑った。
(こんな笑い方出来るんだ……)
ブレイブの満面の笑みを見つめながらサーラが思っていると、彼は恥ずかしそうに尋ねてきた。
「俺が笑うのは不思議か?」
「えっ」
考えている事が見透かされたようだった。
「顔に書いてあるぞ」
「ごめんなさい」
彼の機嫌を損ねてしまったかとサーラは冷や汗をかきながら謝る。
「謝るな。……嫁にきたのがお姫さんで良かった」
「え?」
「シュトルツ族は外界の人間と姿がかなり違う。外界の人間からすれば、俺達は異質な存在だ。しかも、スフェール人とのいざこざのせいでお姫さんは歓迎されていない。そうした状況でも俺達を恨まず、真っ直ぐに向き合おうとしてくれる貴女が妻で良かった」
「ブレイブさん……」
サーラは自分の顔が熱を帯びていくのが分かった。恥ずかしくてブレイブの方を見ることが出来なかったが、視界の端に見えた彼は熟れた果実のように真っ赤な顔をしていた。
「お姫さん、顔が赤いぞ」
「貴方もよ?」
サーラが言うと、お互い顔を見合わせた。そして、声をあげて笑い合った。
サーラにとってシュトルヴァ領に着て、初めて楽しいと心から感じた夜となった。
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