第18話
ラソの翌日、サーラがいつものように館の近くで武術の練習をしているとブレイブもやって来た。二人で稽古をした後、汗を拭きながらサーラは聞く。
「この後は何をして過ごすんですか?」
「国境付近の襲撃で怪我をした者の見舞いに行く」
「それならわたしも行きます」
サーラは言ったが、ブレイブは首を横に振る。
「シュトルツ族のスフェール人に対する感情はまだ良くない。お姫さんは行かない方が良い」
「……それもそうね。わたしは館で過ごすわ」
スフェール人として被害者に会って謝罪をしようとしたのだが、相手の心情をサーラが行かない方が良いだろう。
「お姫さんはスフェール人だが、襲ったのはお姫さんじゃない。気に病むな」
ブレイブは優しい言葉を掛けてくれる。スフェール人がシュトルツ族を襲ったと信じているわけではないが、事実ではないと否定も出来ない。
謝ることで自分の不安を払拭させようとしていたのかもしれない、とサーラは思った。
ブレイブとは別れ、大人しく館に戻る。
部屋に入るとアニーサが昼食の準備を始めようとしていたところだった。
「わたしも手伝うわ。何をすれば良い?」
服の裾を捲りあげながらアニーサの隣に立つ。
「大丈夫ですよ、お部屋でゆっくり休んでください」
「そういえば、わたしは手伝わない方が良いわね」
この間のラソを思い出し、サーラは苦い顔をする。ジャリーラ達は笑って許してくれたが、材料を無駄にしてしまった。今もアニーサの手伝いをすれば、ラソの時のようになるかもしれない。
「わたし、本当に料理が下手なの」
サーラが苦笑するとアニーサは首を傾げた。
「ラソの時、じゃがいもの芽を取り除く仕事をやらせてもらったんだけど、芽だけじゃなく食べられる部分までごっそり削ってしまって……」
恥ずかしい思い出を包み隠さずアニーサに話す。彼女は準備をする手は休めずに、楽しそうに笑った。彼女の髪から覗く飾り羽が揺れる。飾り羽は髪の毛のように頭部から生えていた。気になってサーラはアニーサに問う。
「気を悪くさせてしまったら本当に申し訳ないのだけど……獣の方の孔雀は雄しか美しい飾り羽を持たないけれど、その……アニーサの飾り羽って……」
聞きにくい事を聞いてしまった、とサーラは口にして後悔する。アニーサが嫌な気持ちになってしまったらどうしようと慌てたが、彼女は気にしていないようで笑顔で答えてくれた。
「私は"両性"と言って、人の姿をとる"人化"の性別と獣の姿をとる"獣化"の性別が違うんです」
アニーサによると、シュトルツ族にも"両性"で生まれる者は数少ないと言う。
「私にとってはどちらも自分ですし、性別はほんの自分の一部でしかないから気にしない人が多いんです」
「ごめんなさい、変な事を聞いてしまって。でも、シュトルツ族のこと知れて嬉しいわ」
サーラが言うとアニーサは嬉しそうに笑ってくれた。
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