第12話
スフェールの王宮は宝玉の国らしく、土に煌びやかな鉱石を練り込んだものを建築素材として使用している。その為、満天の星空のように王宮そのものが輝いている。
男は王宮の壁を横目で見ながら廊下を歩いていた。背が高く、腰まで伸びた艶やかな黒髪を1つに束ねている。口許にある黒子が印象的だ。
彼の後ろには同じくらいの背丈の男性が一定の距離を保って歩いていた。
彼らを先導している低身長で手足が短いスフェール人の兵と比べると、その体格は全く異なる。
スフェール兵は、額に汗をかきながら彼らを一室に案内する。
「ハルハーン・クトゥブ国王陛下がお越しです!」
兵の声に重厚な扉が開かれる。中にいたスフェール王イサークが立ち上がるのが見えた。
「我が国にお越しいただき光栄です、クトゥブ国王陛下」
ハルハーンと呼ばれた男は、挑発的な笑みを浮かべて差し出された手を握った。
「さすが宝玉の国スフェール。砂の国と呼ばれる我が国とは豊かさが違うな」
「何をおっしゃいます。サビアでしか採れない星蜜が無ければ、スフェールの大地に眠る宝玉を採掘することは出来ませぬ」
星蜜とは、様々な用途で使用される油である。サビアでしか採れない天然資源であり、多種多様な用途で使用可能な為、大陸中の国が欲している。サビアは星蜜以外は砂漠しかないことから"砂の国"と呼ばれるが、星蜜のおかげで大陸一の裕福な国家であるのだ。
イサークはハルハーンに座るよう促す。ハルハーンはゆっくりと椅子に身を沈めた。
途端に緊張感が走る。ハルハーンは、鋭い視線をイサークに向けた。
「では、単刀直入に言おう。前回も断られたが、砂の国と同盟を結ぶつもりはないか? スフェールとしても我々と組む利益はあるはずだがな」
「と言いますと?」
「最近、国境付近では治安が悪くなっていると聞いたぞ」
イサークは眉をひそめた。
「クトゥブ陛下がおっしゃる同盟とは、お互いの国の間で輸出入される物資に対し税をかけないこと、そしてお互いの兵を駐屯させる……。税をかけないことはともかく、兵を置くとはまるで誰かと戦争をしたいかのような内容ですな。スフェールと近い位置にある国と」
イサークの言葉にハルハーンは表情を変えない。
「兵を置くことはどちらかの国が攻められた場合、同盟国がすぐに加勢するぞという警告にもなる。スフェールの豊かな鉱脈をものにしたいと狙う国はいるはずだ」
スフェール人でしか採掘出来なくても侵略した国が恩恵を受けられるような仕組みを作ることは出来る、とハルハーンは続けた。
「ディアマンティ国王陛下、スフェールとサビアに強固な同盟関係があるとアピールする事は自国を守ることにも繋がるぞ。結論は急がない。1か月後に答えを聞こう」
ハルハーンは不適な笑みを浮かべると立ち上がり、側近を連れて部屋を出て行った。
彼が退出した後、イサークは同席していた臣下達を見渡した。
「サビアの小僧が言っていること、お前達はどう思う」
「サビア王の狙いはスフェールとの同盟を足掛かりにシュトルヴァ領を挟んだエゲリアへ侵攻する事かと思われます」
臣下の1人が告げるとイサークは頷いた。
「そうだろうな。その為に同盟を組む利益をちらつかせておる。スフェール兵がシュトルツ族を襲ったというのは、スフェール兵に化けたサビアの工作員だろう。シュトルツ族が怒り、諍いになれば戦いに慣れていない我が国は強靭な肉体を持つシュトルツ族に勝てるはずがない。奴は国の安全を担保に同盟を強要している」
イサークは眉をひそめ大きくため息をついた。
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