第8話
部屋の窓から柔らかな陽光が差し込む。外では小鳥が楽しそうに囀ずり、朝を告げている。
昨夜、ブレイブはサーラに話をした後、自身が生活している離れへと戻っていった。その後、サーラは1人で過ごしていたが、いつの間にか眠っていたらしい。
寝台から体を起こし、身支度を整える。朝食の時間にアニーサが運んできてくれた料理に舌鼓を打つ。採れたての野菜に釣ってきたばかりの魚は、新鮮なうちに調理され、素材の味を最大限に引き出していた。スフェールに比べると、シュトルツ族の料理は調味料をあまり使わないが、素材そのものがとても良いものを使っているので、調味料が少なくても美味しい。
朝食後、サーラはサンスクリットを呼び出し、ブレイブから告げられた今回の結婚の裏側を伝えた。
サーラの話を黙って聞いていたサンスクリットは、険しい表情を浮かべる。
「正直、私でさえ知らない情報でした。王宮でもイサーク陛下とその側近、ごく限られた人間しか知らないのでしょう」
「サンスクリットでさえ知らないのならほとんどの人間は知らないはずよ。それとね、彼の話を聞いていて違和感を覚えたの」
サーラはサンスクリットの目を見て話す。
「スフェールは宝玉で稼ぐ国よ。平穏が好きなスフェール人の気質と戦慣れしていないことから軍事が得意でない国でもある。戦争で領土を広げるより、商いをした方が国益はずっと大きいから、より他国との関係に敏感になっているわ。そんなスフェールが、お父様がシュトルヴァ領との国境を侵して、シュトルツ族を襲うなんて挑発行為をするとは考えにくいと思うの」
スフェールは採掘した宝玉を他国に売りに行く隊商の護衛に、必ずシュトルツ族の戦士を起用しているのだ。一騎当千と呼ばれるシュトルツ族の戦士なら、高価なスフェール産の宝玉を狙う盗賊が現れても荷を守りきれる確率が高い。
その為、スフェールにとってシュトルツ族との友好関係はメリットが大きいはずなのだ。
「だからわたしは、本当にシュトルツ族を襲ったのはスフェールの兵なのか知りたい」
「成る程。私が調べればよろしいのですね」
サーラの意図を瞬時にサンスクリットは理解する。
「シュトルヴァ領にいるはずの貴方が、スフェールに戻ったと知られたら厄介な事になるかもしれない」
「素性を隠して潜入するということですね」
「ええ、あとは彼等の許可をもらわないと。出来れば旅支度をしてもらえたら助かるのだけど」
サーラ達にはお金が無かった。母が残してくれた少ないお金は結納金として渡しているので、自由に使えるお金は無い。サンスクリットにスフェールへ潜入してもらうには、ブレイブ達の協力が必要不可欠だ。
「アニーサ、いる?」
部屋の外に待機していたアニーサに声を掛けると、すぐに返事があった。
「サンスクリットに1度スフェールに戻って欲しいのだけど、旅支度のお願い出来るかしら?」
「用意するのは問題ありませんが……サンスクリット様が1度自国にお戻りになるのであれば、族長達の許可が必須になります」
「分かったわ。許可をもらうにはどうすれば良い?」
サーラが聞くと、アニーサはすぐに返事をする。
「私がサーラ様達を族長がいる所へご案内いたします」
サーラとサンスクリットは顔を見合せ頷いた。
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