第7話
「スフェールはわたしを貴方の妻にして、シュトルヴァ領との関係を強固にし、お互いの領土を侵さない約束を取り付けられた形になりますが、貴方に何の利益があるのですか?」
シュトルツ族はサーラのような人間よりも身体能力が遥かに高い。その中でも訓練されたシュトルツ族の兵は、"一騎当千の猛者"と呼ばれる程手強いのだ。
スフェールを攻撃しても勝ち目があったのではないか、と言いたいサーラをブレイブは不思議そうに見た。
「俺達は外界の人間よりも強いから、戦慣れしていないスフェールと戦っても勝てるんじゃないかと言いたいんだろう?」
サーラは頷く。
「勝てたとしても誰かが傷付く可能性は十分にある。それに俺は戦が嫌いだ。平和に解決出来る方法があるならその方法を取る」
ブレイブは続けた。
「スフェール王とは、シュトルツ族がスフェールで商売をしても外国人税を徴収しないという約束も取り付けている。俺達にも利益のある結婚になっているんだ」
「そうだったのですね……」
「お姫さんには本当に申し訳ないことをしている。ただ、1ヶ月前に事件があったからシュトルツ族のみんなはスフェール人を良く思っていないんだ。だからお姫さんや近衛騎士に冷たく接している」
族長として申し訳ない、とブレイブは頭を下げた。
「率先して俺がお姫さんに笑顔で接すれば、他のみんなの意識も変わるかもしれないが、笑う事が苦手で……」
「ちゃんとわたしを気遣ってくれるんですね。いつも無表情だから貴方もわたしの事が嫌いなのかと思っていました」
サーラが言うと、ブレイブは目を見開く。
「何故、嫌う必要がある? シュトルヴァ領で生きていく仲間だろう」
仲間という言葉にサーラは笑う。
「そうですね、仲間です」
サーラが手を差し出すと、ブレイブはおずおずとその小さな手を握りしめる。白い髪から覗く獅子の耳が落ち着かなさそうに動いていた。
自分達は形だけの夫婦だ。だが、意外とその事が悲しいとは思わなかった。ブレイブが"仲間"と呼んだからだろうか。
「お姫さんは俺に敬語を使わなくて良い」
出自も貴女の方が高貴な人間なのだから、とブレイブは言う。高貴な人間と言っても肩書きだけだった。王宮では誰もサーラを見ようとしない。王族の顔色を伺ううちに、下々の者の顔色まで伺うようになってしまった。不快な思いをさせてはならない、良く思われねばならないと考えるうち、誰に対しても丁寧な話し方をしていた。そうしないともっと嫌われるかもしれないと考えていたからだ。
もっと砕けた話し方で良いと言うブレイブは、サーラがお手本通りの話し方じゃなくても嫌いになることはないのだろうか。そんな期待が胸に芽生えた。同時に嬉しさも湧き出てくる。
この人は、自分自身を見てくれる人なのかもしれない。たとえ夫婦としてではなく、仲間としてでも。サーラはそれでも良かった。自分を見てくれるのであれば何でも良い。
「仲間だもの。丁寧な話し方は合わないわね」
「そうだ」
「これからよろしくね、ブレイブ」
「こちらこそ」
相変わらずブレイブは仏頂面だったが、サーラは彼を怖いとは思わなかった。
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