第二十四話

 全体会議では、どれだけ経っても捜査が進展しないことに局長から「何億ドブに捨てればガザフタスは見つかるんだ?」と愚痴が溢されていた。


 部屋に戻ったチームは疲れ切っており、打つ手なしといった感じである。そんな無駄な時間を過ごしている間に、またしても自爆テロ事件が別の街で発生してしまった。


「……クソ!!」


 苛ついた様子のサバスが悔しげに机を叩くが、レイは頬杖をつきながらモニターに映るテロのニュースを見た途端に、ふと何か閃いた。


「……待て。今報道されているテロ事件の決行を、捕虜は知ってるのか?」


「いや? 尋問部屋に軟禁してるから“今日がいつなのか”も知らないはずだ」


「ならば『他の捕虜がこのテロ計画に関する情報を吐いたおかげで、テロは未遂に終わった』とカマをかければ、何人かは諦めて情報を引き出せるんじゃないのか」


 レイの妙案を耳にしたサバスとアリーが、互いに驚く顔を見合わせた――。


 そして、その読みは見事に当たった。


 二人の幹部がサバスの嘘を見抜けず、新たな情報をずけずけと漏らしてきたのだ。それによりガザフタスの右腕となる男の正体が『アーディル』ということが判明し、捜索は急激に加速することとなる。


 アーディルは以前から捜査上でマークしていた人物であったが、これまでの捕虜による発言で雑用係だと認識していた。しかし、それは捜査を撹乱するために捕虜達が口裏を合わせた“ガセ情報”だったことが不意に発覚した。


「ガザフタスから直接指示を受けているアーディルは、それを各構成員に分散させる重要な役割を担っている。こいつを敢えて野放しにして追跡すれば、おのずとガザフタスも発見出来るはずだ――」


 会議の中でサバスは、アーディルを最重要捜査対象にする方針をチームに告げた――。


 ここで再びレイが功績を上げる。


 レイは捕虜に対し『家族と面会させてやる』という名目で捕虜の妻や子供を尋問室に招き入れたが、突然“捕虜の目の前で家族を殺害する素振りを見せて脅す”という、残虐非道な手法を用いてアーディルの住処を吐かせたのだ。


 この脅しは効果覿面だった。


 テロ組織の構成員は“組織のために命を投げ打つこと”が本望とすら思っており、拷問じみた尋問も効果は薄い。

 しかし、彼等は目の前で“家族の死”を見ることだけには大きな抵抗を示す。これは宗教上の教えで『家族愛』を尊重する傾向があるためだ。


 レイが使用した尋問の仕方はバーネット大尉が昔に中西紛争地の駐屯基地で使っていた方法であり、現在では国内でも間違いなく批判を喰らうものである。


「罪のない一般市民を有事に巻き込むのは、国際的にも認められるものじゃないわ!」

「テロ被害に遭った遺族達の前でも同じことが言えるのか? この期に及んで、良俗など優先している場合ではない――」


 この件でレイは正義感の強いアリーと口論になったが、サバスが「背に腹は変えられない」とアリーの肩に手を置いて宥めた――。

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