第二十五話
その後、アーディルの居場所を掴んだサバスチームは方針通りすぐに彼を捕えることはせず、自由に泳がせてガザフタスと接触するところを探ろうと監視していた。
そして数日間に及ぶ追跡の結果、アーディルは“ある建物”に高い頻度で出入りしていることに気付く。
「衛星写真に映る人物の中に女性が三人確認された。洗濯物を干しているようだが、多分ガザフタスの女房達だろう」
「……何人か子供も住んでるようね――」
サバスチームはアーディルが出入りする建物を『ガザフタスの自宅』と断定して他の捜索チームにそれを周知した後、国防長官に突撃する最終許可を求めた。
「本当にガザフタスがそんなところにいるのか?」
「監視をしていた十四日間、アーディル以外に五名の傭兵らしき男の出入りを確認致しました。政府関係者でもない家屋でここまで過剰に防衛しているのは極めて不審であり、それ相応の
アリーが国防長官にそう述べている姿を、レイは長官室の扉付近に寄りかかって傍観していた。
そして、しばらく建物の写真を眺めていた国防長官が“ポツリ”と指示を出す。
「突撃を許可する。ガザフタスを捕獲、もしくは抵抗するならその場で殺害して構わん……レイ、頼んだぞ」
「Roger――」
歴史に名を刻んだ大規模爆破テロ事件から苦悶過ぎた七年の月日が経ち、ついに首謀者ガザフタス捕獲作戦が今夜決行されることとなった――。
未明。
軍用ヘリによって移送されてきたレイ達を含む突撃班が目標地点へ到達する。レイの隣では、リネットとカズオが緊張する面持ちで少し震えていた。
「カズオ、落ち着け」
「……わ、わかってるよ」
「レイ様、どうか……ご武運を」
ブレスレットを胸に当てたレイが仮面騎士に変身すると、息を呑んだカズオがやおら鎧に手を伸ばした。
「レイ、行くよ」
そして――仮面騎士がヘリの中から瞬く間に姿を消した。
彼は建物の一階へ
レイが捜索している間。
建物の外では待機する他の隊員達がレイに何かあった際にいつでも出動できる態勢を整え、リネットとカズオは祈る気持ちで建物の様子を静かに窺う。
混沌とした暗闇が支配する深夜。
全く物音すら聞こえてこない時間だけが――刻々と過ぎていく――。
あまりの静けさを不安に思い始める隊員達がいる中、しばらくしてから突然――“ザザッ”というノイズ音が鳴り、レイからの通信がヘリの機内に入ってきた。
『こちらレイ……ガザフタスと思われる人物を発見』
突撃班の班長が落ち着いた様子で応答する。
『そうか。目標の様子は?』
しばらく間を置いた――レイの返答は。
『ガダフタスは私の姿を見た直後に……自害した』
突撃任務の結末は、終始静寂に包まれた形で終わりを迎えた。
建物内の隅で怯えていた非戦闘員である他の家族はそのまま放置され、レイが持ち帰って来たガザフタスの遺体を積んだ突撃班は早々に作戦領域から撤退――帰還中の機内では班長がレイからの報告を受けていた。
「いきなり敵と遭遇したのか?」
「ああ。だが早急に対処出来た――」
完全に気配を消していたレイは、建物内で武装していた五名の傭兵達を全て背後からの一振りで音も立てずに倒していた。
その後、最上階の寝室で慌てていたガザフタスを発見したが、彼はレイの姿を見るや否や咄嗟に喉元へナイフを突き刺した。そのすぐ近くには、ガザフタスの妻や子供達もいたという。
レイが報告を終えて沈黙が続く機内。
その中でレイに対して「本当はお前が殺したんじゃないか?」と尋ねる者は、誰一人としていなかった。
明け方。
中央情報局本部にヘリが帰還すると、局員達による遺体確認によって運び込まれた遺体がガザフタス本人だと確定された――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます