第二十三話

 ガザフタス捜索チームは中央情報局長を筆頭に置いた分析官や技術者など、多くの局員達が活動を展開している。

 その中で、レイは捜索チームを複数のグループに分割した一つである『サバス班』へ合流した。


 リーダーの『サバス』は濃い目の無精髭を蓄えたベテラン尋問官。そして彼を補佐する『アリー』は長めのブロンド髪をポニーテールに結い、細縁の眼鏡をかけた若い女性分析官だった。


 現在、サバスチームはガザフタスを取り巻く幹部達を複数人捕虜として尋問をかけている。ところが中々口が硬く、重要な情報が引き出せずに手詰まり状態らしい。


「もうあいつらを尋問するにも限界がある。昨今は尋問の仕方を問題視する人権派の動きが過剰になりつつある現状、これ以上は無理だ」


 会議室で煙草を吹かすサバスが渋い表情でそう口にすると、アリーは作戦ボードを見つめながら頭を悩ませていた。


「でも……小規模とは言えど、これ以上奴らのテロを見過ごす訳にはいかないわ」


 敵の組織は最近、国内に潜伏しながらあちこちで小規模な自爆テロ行為を繰り返しており、被害者は増える一方である。一刻も早く、指示役となっているであろうガザフタスを捕らえなければならない。

 その場に居合わせていたレイがアリーに質問してみる。


「こちら側から敵陣営に潜り込ませているという諜報員は、今何をしているんだ?」


「武器類の調達係として活動してるわ。弾薬や爆薬を仕入れて各組織のアジトに納品してるようだけど、一方的に指示を出されるだけで諜報員からの質問には一切答えない体制を取られてるの……これじゃあ付け入る隙なんてないでしょ?」


 溜息混じりに応えたアリーにサバスが続く。


「盗聴器を仕掛けても万一見つかれば一発で“オジャン”ってワケ。奴らの組織は徹底的に役割が分業化されてて、必要最低限の情報しか与えられないんだよ――」


 まさに詰み状態。


 七年間かけて何人かの幹部を捕えることは出来ても、肝心な首謀者の尻尾を掴むのは容易ではなかった――。


 一方その頃。


 リネットとカズオは異世界から元の世界に物質を“転送”すること自体は難なく成功させていた。


「お~、やっぱりこっちから送る分にはランダムもヘッタクレもないわな」

「でも、送れる物質の“大きさ”に限度があるみたいね……」


 その後に二人は転送する物の大きさを徐々に拡大していった結果、『ファミリータイプの冷蔵庫サイズ』が限界だということまでは判明させた。


「てか、こんな感じでいいの? これだと、ちまちまこっちからマシンガン送るくらいしか無理じゃね?」

「う~ん……本当にそれでいいのかしら?」

「ゾンビならまだしも相手魔王だぞ? キツイっしょ〜」


 魔王城は孤島にあるため、魔王討伐はまず孤島に上陸してから周辺の魔物を倒しつつ魔王城へ攻め込むことになる。

 もちろんマシンガンなども十分火力として使えなくはないが、それで魔王を討伐出来るに至るかは甚だ疑問である。


 “物は試しだ”と持って来ていた『亜空間収納袋』という魔具も試したが、異世界ではそもそも亜空間が展開される仕組みがないらしく、ただの布袋と化していた。


「残念……これに詰め込めたら楽だったのに」


 落胆する顔でショボくれるリネットの横で、唐突に何かを閃いたカズオが「……あ!」と目を丸くした。


「これってさ、もしかして俺の“転移出来る物質の最大値”と、リネットの“開門面積”に比例してるんじゃない?」


 カズオは、魔力増強剤などによって転移能力を増強し、さらに開門面積を広げればより大きな物質の転移が可能になるのではないかと推論した。


「どうしたの急に!? いきなり偏差値上がってない!?」

「ゲーム脳なら70くらいあるわ! とりあえず、そうと決まればレイに一旦報告して、次のステップに進む支度を整えに元の世界へ戻ろう!」

「うん!」


 二人がサバスチームの部屋に訪れると、混沌とした空気が漂うレイ達の様子を見て、笑顔が一瞬で消え去ってしまったのであった――。

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