第2話 異界史

『全能知流ソーラスリアムより紡ぎし、決して交わることのない並行世界の歴史を記す』


 表紙をめくると初めにこの文章が目に飛び込んだ。ソーラスリアム。すべての知が集まる流れであり、どこにあるのか、どこへ行くのか、そのすべてが未だに謎の概念のようなものだ。すべての魔導士が一度はソーラスリアムに到達?することを夢見ている。


 並行世界の歴史書・・・ソーラスリアムは異界の事もわかるのか。何か役に立つものがあるかな?そう思いながらページをめくると、異界の概要という項目に驚愕の事実を発見した。


 なんと異界には魔力も魔法もないらしい。普通の貴族学生ならこの時点で読む価値が無いと判断しそうだが、僕は魔力の無い領民たちに何かヒントになるものは無いかと思い読んでみることにした。たとえこれが空想本であったとしてもちょっと面白そうだ。


 目次には大雑把に分けられた時代区分とその時代の世界の流れ、覇権国家の出来事などが書かれているようだ。目次だけ読んでもわかるのは、覇権国家がころころと変わっている。魔法という力が無ければこれだけ不安定なのだろう。


 また付属された異界の地図を見ることで、自分が如何にこの世界の全体を意識していないかが分かった。いや、もしかしたら僕だけじゃないかもしれない。この国の貴族はこの世界の形など興味がなさそうだ。


 異界史には文化、文明の興りから政治、代表的な生活様式、技術、芸術、人物、歴史転換となる事象などが書かれている。原始社会や最初期の文明など魔法がなくてどうやって成り立っていたのかも想像がつかないが、人類は滅びていない。その事実がとても興味深かった。


(人は魔法が無くても生きていけるのか)


 石器や土器の時代が終わり、農耕が始まり文明が興るくらいまで読むと授業が終わってしまった。


「先生!大変興味がある本を見つけたのですが、貸出していただけるのでしょうか?」


「図書室の本は貸出をしていません。ですから時間を見つけて読みに来るか、一定の金額を払えば写本魔法による複製を認めています。」


 写本したいなぁ。入学三ヶ月で失ってしまった目標は、異界史を写本するという新しい目標に形を変えた。


「なにか面白い本でも見つけたのですか?」


 アメリアさんが隣にきて話しかけてきた


「うん。これ異界史っていう本らしいんだけど、魔法の無い世界の歴史が書かれているみたいなんだ。」


「魔法の、無い世界?」


 アメリアさんがぽかーんとしてる。そりゃそうだ。魔法の無い世界なんて想像がつかないし、普通の貴族がそんな本に興味を抱く理由もわからない。


「ちょっとした物語気分で読んでみようと思ってさ。魔法や魔導理論なんかはまだピンと来なくてさ」


「それはちょっと面白そうですね。想像したり理解するのが大変そうですけど。」


 そういうとアメリアさんはクスクスと笑った。


「アメリアさんはなにかいい本見つけた?」


「私は風魔法と緑魔法と水魔法の相互作用に関する魔導理論を見つけました」


「へぇ!それも面白そうだね!」


「そうなんです!頑張って写本できるようにしないと」


「そうだね。異界史もぱっと見ただけで10巻以上ありそうだからがんばらないと」


「10巻!?」


 物語気分で写本するには多い量にアメリアさんはびっくりしていた。



 この本との出会いを境に僕の学校生活、いや人生そのものが大きく変わっていくのであった。

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