Industrialize Sorcery
矢口羊
第1話 運命の本
正直言って僕は魔法の才能に秀でていない。この貴族学校に入って最初の三ヶ月でそれを痛感してしまった。世の中天才っているんだなぁ。
勿論こんな僕でも子供のころは魔法が大好きでたくさん勉強をしてきた。兄弟たちの中でも一番勉強したという自負はあった。だが今思うとそれも領民と触れ合う事の多かった僕が、みんなから尊敬を得たいという自己顕示欲を満たすためにやっていたのかもしれない。
そう思い直してしまうほど、貴族学校のトップたちは魔法のために生きているようだった。魔法のための生活、魔法のための地位。そんな鬼気迫るものを感じる三か月だった。彼らの様な貴族は魔導貴族と呼ばれ、国の魔導研究機関や王家の近衛魔法騎士、宮廷魔術師などに所属していく人材だろう。
伯爵家の三男に産まれた僕は、兄上たちとは違い領主教育をあまり受けず領地の調査などに駆り出されることが多かったため、領民と触れ合うことがあった。領地の中心都市はそれなりに発展しているが、農村部などは時間の流れが違うのではないかと思うほどゆっくりとした生活をしていた。自然に翻弄されながらなんとか暮らしていく生活、そういった営みをおそらく1000年は変わらず続けているだろう。
そんな彼らの生活をほんの少し豊かにしてやりたい。彼らとのふれあいの中でそういう思いが出てくるのは僕にとって自然な事だった。
なにかヒントは無いかと魔法の勉強をした。領地領民を豊かにする方法が思いつくかもしれないと期待して貴族学校にも入った。しかし、僕の思っていた魔法と他の貴族たちが思い描く魔法は全くもって別のものだった。
魔法は便利すぎる。
それ故に魔法を使えない者たちは初めから期待をされていない。死なない程度に守ってやるという庇護の対象でしかないのが一般的な貴族の考えだった。
そういえば、父上や兄上たちからもそんな夢みたいなこといつまでも言ってるんじゃないと呆れられていたなぁ。母上の「三男だからおっとりしていてやさしいのね」、という言葉には半分呆れも混じっていた気もする。
「イーノ君。そろそろ図書室に行きましょう。授業に遅れちゃうわ」
「ほんとだ!ありがとう」
クラスメイトで男爵令嬢のアメリアさんの呼びかけで、回想世界から呼び戻された僕は慌てて移動を開始した。
(今日は初めての魔導図書室の解放日!何かヒントがあれば!)
図書室では、利用時の注意や魔導図書室の特性などを司書の先生が説明してくれた。なんでも毎年勝手に本が増えるそうだ。また図書室自体も魔導空間で勝手に大きくなるらしい。外から見たら小さい一室なのに、中は凄い量の本が並んでいる。もう室を超えて館のレベルだ。
説明が終わると皆は自分の使いたい魔法や勉強したい魔導理論などの本を探しに散らばっていった。僕も負けじと魔力が無くても使える魔法(無理)や魔力が無くても動かせる魔道具(無理)のヒントが無いかと本を探した。が勿論なかった。まぁこの三ヶ月の魔導理論の勉強でそんなものは無いと分かってはいたのだ。だから目標を見失ったのだ。
現実を突きつけられがっくりとしながら図書室の席に座っていると、学生が誰も居ない本棚の列がある。分類としては・・・歴史書か。魔法に関する歴史的流れは授業で普通に習うし、あまり僕たちの生活や教養に関係のない歴史資料なのかもしれない。
そう思いながら本のタイトルに目をやっていると、一番端の一番下の段に何冊か目を引くものがあった。
『異界史1』
運命の本との出会いは突然であった。
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