27 祖父□さようなら惺/保母D*意外な方からの電話

ある日、私は例の孤児院に電話を掛けていた。受話器を耳に当て、暫く待つ…。緊張しているのか、何だか変にそわそわとする。

「はい」

事務的な堅い声色の女性が出た。

「突然、申し訳ありません。私は……」名と住所、自分は工匠だと伝える。

「え、あ…その。い、院長に代わりますので、このままお待ちくださいませ!」

受話器の向こうで、バタバタという足音と、何かを蹴飛ばしたような音がした。

……ふふ。また。

全く。街の者達は、工匠わたしたちを一体何だと思っているんだか。A氏達も以前愚痴を溢していたが、いつも私の正体が判ると相手側は皆、大抵こういう反応をするのだ。「何も、そこまで恐縮すること無いのに」と毎度、思うのだが…やはり私が特殊な職業上、どうしても立てられることになるのだ。

勿論、嬉しいし誇りにも思うさ。しかし極論、工匠だって同じ人間だ。流石に何の変哲も無い一般人…とは言えないが。それでも正直、一般人みんなと変わらないと私は思っている。あくまで私はね。

それに、たとえ良い意味であっても差別的な態度には、時々寂しくなるんだ。

「工匠だって貴方達と同じなのになあ…」なんて。失礼。話が逸れましたね。


それから少しすると、穏やかな丸みがある声の女性が出た。

「大変、お待たせ致しました。院長のDです」

「いえ。お忙しいところ、突然申し訳ありません。実は…」

私は、Dさんに「あきらを引き取って貰えるかどうか」を交渉した。不審がられぬ様、あらかじめ用意しておいた〝それらしい理由〟を添えて。

…結果、とても親切なD院長の了承を得られ、更に今後の詳しい予定まで決めてくれた。私は、彼女の対応に心底感動していた。この短いやり取りの中で、依頼人が工匠だからという理由でなく、素直に劍を迎え入れよう…という感情がひしひしと伝わってきたからだ。


……劍。お前にも、良い家族が出来そうだぞ。




   □ ■ □ ■ □




十二月 某日。

院に意外な方から電話が掛かってきました。

街で有名というか…尊敬されているというか…とにかく特別な方なのです。

それは、工匠様…月並つきなみに言い換えるなら、そうですね。神官様に近いのでしょうか。

その役職の中でも現在、おさでいらっしゃるような偉大な方で…。それなりに、お歳を召されていますが、とても若々しくあるところも、街の皆を惹き付ける魅力のひとつなのかも知れません。


   *


「つまり…今から数年間、アキラ君をお預かりして、お孫さんがいらした時は、アキラ君を、そちらにお返しする…ということで宜しいでしょうか…?」

「ええ。唐突で申し訳ないのですが…」

「いえ、とんでもございません! では。すぐに手配いたしますので…恐れ入りますが、後日、こちらに来て頂けますでしょうか?」

「分かりました。どうぞ、よろしくお願い致します」


最終的に、工匠様は来年の一月、アキラ君を連れてここへ来られる事に決まりました。

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