24祖父□頼む/裏の棕矢◆ルナの鉱物/祖父□アキラ
XX13年 10月
己の手で『中和の役目となる〝
しかし、今回ばかりは、もう
そこで最終的に、やむを得ず「私と妻で
だから、ひとまず私が作った
さて。
中和創造…と、漠然な案は浮かんだものの「どうやって〝中和〟というモノを創り出し、どうすれば、それで〝世界の歪みを元通りに出来るのか〟」だ。
中和…言葉にすれば二文字。でも実際、そんなに大規模で、非現実的なものを一気に達成できるという保証はどこにも無い。
…物事を崩し破壊するのは、とても簡単で一瞬のこと。でも、崩れてしまってから取り戻すには膨大な時間が掛かるのだから。
私は、また何日も悩み尽くした。
食事も忘れるほど考えた。
そして。
十月が終わる頃。
「中和……だから〝表裏の対〟となる
やっと…ついに閃いた。
そして、
が、偶然にも、それは好都合だった。膨大な選択肢が一つに絞られた上に「今なら〝裏側のそれ〟を入手できる確率も高い」からだ。
「裏の
翌日。次回、裏の彼に会えた時の為、考えた事とお願いする内容を詳しく書き留めた。言葉にして紙に書き連ねると、作家になって空想の物語を書いている気分だった。しかし、私は書く…書く…書く…
***
XX13年 11月
私は、どうしても胸騒ぎがして、深夜になっても眠れずにいた。
そして…夜中の二時を回った頃。彼は現れた。
「おや、こんばんは。…丁度、君に会いたいと思っていたところですよ」
一階のカウンターの部屋。窓を開け、庭先を眺めながらハーブティーを飲んでいた私は、カップをソーサーに置き視線を合わせた。
私の意味深な
「会いたかった…なぜですか?」
「それは…」
私は彼を室内に招き入れると、カップの横に置いてあった書留を見せ説明した。
彼は黙って、私の話を聞いていた。
「ルナを〝元通りにする為〟には、〝そちら側の
「ほう…鉱物?」
「ああ。ルナの
□ ■ □ ■ □
目の前の男が、へりくだって頭を下げる。
彼は、お祖父様と瓜二つだから、物凄く変な感じがする。
「ほう…鉱物?」
「ああ。ルナの
「…はい」
彼は、俺の返事に安心したのか息をひとつ吐く。
そして強く真っ直ぐな視線を向け、言った。
「では、それを、ほんの
「わかった」
反射的に俺は、深く頷いていた。きっと俺の中から自然と湧いた答えだったんだ。それに「元通りにする為に必要」というのなら、何も断る理由が無い。
「ありがとうございます」と、彼は再び頭を下げた。
「
俺は言って、館を後にした。
ルナの
「どうやって手に入れようか」
お
でも、それ相応の口実があるのかというと…正直、今は無い。
「興味があるので見せてください」
……うーん。今更?
「調べたいので…」
……いや、何をだよ。
「奉納品の作り方を…」
……これなら、そこまで怪しまれないか? いや。でも何で、急にこんな時期に、って思われるか?
結局、一つも、ぴんと来なかったので小難しい事は抜きにして、単刀直入に訊いてみることにした。一か八かだ。もし理由を訊ねられたら、それとなく誤魔化せば良い…。
*
「お祖父様!」
俺は、お祖父様が寝室に入ろうとしているところを呼び止めた。緊張し過ぎて、脈打つ鼓動で胸が痛い。
「ん?」
「あ、あの、急で申し訳ないんだけど…ルナの鉱物、ちょっとだけ貰っても良い?」
案の定、お祖父様は疑問符を頭に浮かべ思案する。そして軽く笑うと「良いよ」とあっさり了承してくれた。
……なんだ。そんなに心配しなくても良かったじゃないか。
お祖父様は「今年の奉納品を作った時の余りが少しある筈だから、持っていって良いよ」と言ってくれた。
「ありがとう」
「ああ。おやすみ、
「うん。おやすみなさい」
*
俺は早速、仕事部屋に行くと鉱物を仕舞ってある場所の結界を解く。
何度もここに入っているから、どこに何があって、どんな結界が張ってあるか、くらいは知っている。
「あった…」
小さな欠片を手に取る。
ほぼ均等な間隔で細い筋が入る、銀色の
……よし。
「お狐さま…」
…反応は無い。外で虫が鳴いているのが微かに聞こえるだけ。
『お狐さま…』
今度は目を閉じ、念じる。
『今夜…正門を開けて貰えませんか?』
『……良いだろう』
□ ■ □ ■ □
十一月 十八日。
私達は、裏の
…二つの存在は、二歳くらいの幼児のカタチをしていた。
こちら側の鉱物を用いた方は、どことなく息子に似た男の子。
髪色は息子より薄いものの、ふわふわとした猫っ毛で、瞳の形も垂れ目気味で似ている気がする。それから、この子の瞳の色は、色素の薄い
それから、もう一方。裏側の鉱物を用いた方は、全体的な雰囲気が息子の連れに似た男の子だった。
切れ長の目と、女性的な穏やかで整った顔立ち。…しかし、艶やかな黒髪に、澄んだ紅色の瞳は誰に似ているわけでもなく、とても印象的だった。
「貴方…」
「……」
「これで、きっと…大丈夫よね」
「…きっと」
「ええ、きっと」
肩を震わせる妻の横。私はもう堪え切れなかった。
「…ごめんな」
「え?」
「ごめんな…お前まで巻き込んで…悪かった。本当に…」
この時…今更、仕方がないのに〝代償〟の事が脳裏で重く渦巻いていたのだ。
代償。現段階では、それらしき出来事は何も起こっていない。恭の時は、すぐに代償が判ったのに、今回は違うのか…?
一体どんなものが代償になるのか、全く見当が付かない…。
妻の手が、私の手に添えられる。温かい。
「いいえ。私だって関係しているでしょう? だから、貴方だけが背負う事じゃないわ」
彼女の
私は、童心に返った心持ちで「ありがとう」と彼女の手を握る。
妻の頬からも一筋、涙が流れ落ちた。
それから、私と妻は〝中和の存在〟である二人の名を考えていた。今、二人には術を掛けてあり、眠っている。まじまじと
数日間、妻と考えあぐねた結果、二人とも同じ響きの名前にしようという事で落ち着き『アキラ』に決まった。
◆劍…真っ直ぐな
◇惺…悟ったように心が落ち着いていて、遠くまで澄み渡る星空のように、皆を正しく導いて欲しい。
そんな意味を込め『劍』と『惺』になった。
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