22 裏の棕矢◆最初の使命
物凄く疲れていた。正直どうやって、ここまで帰って来たのかも曖昧だった。
……今は休んで、明日…考え…よう。
俺は急激な睡魔に身を
*
翌朝。大いに寝坊した俺を、お
「昨日の夜、遅くまで出てたのね…? 大丈夫? 何かあったの?」と開口一番に言われる。
……やっぱり気付いてたか。
多分、庭の
だから「ううん…何でも無い。ちょっと風に当たりたくて、散歩」とかそれっぽい事を言って誤魔化しておいた。
幸い、お祖母様は「そう。夜中は気を付けてね」とだけ言って部屋を出て行った。
寝不足のぼうっとした頭で着替え、階段を下りる。朝食は一応、食べられたけど何を食べたかは覚えていない。恭に「お兄様、どうしたの?」となぜか複雑な
朝食が済み、早々に自室へ戻ろうとしていた俺が階段を上っていると、急に後ろから声を掛けられた。
「お兄様!」
「うわっ!」
ぼんやりしていた上に、声の主が突然腕に絡み付いてくるものだから凄くびっくりして階段につまずきそうになった。
「や、止めろよ」
怪訝そうな顔を向ける俺に構わず、恭は手を放そうとしない。そして、結局そのまま俺の部屋まで入って来た。後ろ手に部屋の
……ああ。こうなったら恭は中々諦めないんだよな。
ご覧の通り、恭が部屋の出入口をしっかりと塞いで動こうとしないので、これは観念するしかなさそうだ。
「はあ…ちょっと待ってくれ」
俺は自分の頭をわしゃわしゃと雑に掻いて、大きく溜息を吐いた。
今、頭の中が一杯なんだ。
嘘みたいな奇怪な話を自称「神様」に散々聞かされた翌日なんだから…。
ここのところ寝不足が続いていた俺の頭は、そろそろパンクしそうだ。
それに昨晩の奇妙な出来事については、まず俺自身が殆ど整理も理解も出来ていないんだ。その状態で、誰かに説明なんて出来るわけがない。
すると、恭が不意に立ち上がった。
「良いわよ、ちょっと待っててあげる」
「え?」
宣言した彼女は俺のベッドに腰掛けると、足をぶらぶらさせた。
……今日は、何か不機嫌だな。恭こそ何かあったんじゃないか?
数分悩んだ末、結局、俺は少しだけ話す事にした。
それに〝お狐さまとの契約〟の事や、詳しい部分を言わなければ良い話だ。
取り敢えず、手近にあった紙に昨晩の出来事、説明されたことを書き出し…整理しながら簡単な
話を聞き終えた恭は興味があるのか無いのか「ふーん」とだけ言った。でも表情を見る限り一応、満足はしてくれたみたいだ。…が。
……あんなに、しつこく詰め寄ってきたくせして、何だよ。
思ったより薄かった反応に、労力を費やしたこちら側は何とも言えない気分だ。
とにかく疲れた。寝たい。
恭が部屋から出ていくと、俺は入れ替わりにベッドへ飛び込み、そのまま泥のように眠った。たまには怠惰な日があっても良いだろ?
*
普段よりだらだらとした一日を過ごす。そして何事も無いまま、夜となった。
これで、やっと。まともに休める。
そう安堵して
『
「は? 使命? 何でまた。もう本当に…何なんだよ」
けれど口から出た言葉とは裏腹に、この時は怒りより冷静さが勝っていた。
なぜなら、俺の身体が自然と聞く態勢になっていたからだ。
いや、もしかしたら語弊があって落ち着き払っていたのは冷静さより諦めの方が強かったからかもしれないし、多少頭の隅で想定していた状況だったからかもしれない…。
お狐さまが告げる。
『〝反対側の祖父母〟に会いに行ってこい』と。
会いに行って、昨晩、俺が聞かされた
「俺達…対の人物、対の世界の事」
「この二つの世界を繋ぐ橋である〝門の管理〟が難航している事」
また難航している理由、切っ掛けは
「〝禁忌〟を犯したことによって、表裏の
「更に今の状態が続くと…近々、二つの世界で拡大し得る〝重大な弊害〟があり…
現時点で、もう既に段々と小さな弊害が起こり始めている事」
それ等を全て伝えてこい…という事らしい。
はあ…とにかく。
まだ俺の中で、完全には消化できていないというのに…
「全く、無茶な神様だ」
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