13 祖父□ルナの鉱物

仕事部屋にもり、あの不思議な夢を思い返していた。

息子は何を伝えたかったのだろう…。

「ルナの鉱物いしが何なんだ!」

何も思い浮かばない自分に、苛々する。

私は、今年の奉納品を作った時に残った〝鉱物それ〟を取り出してみた。

なめらかな銀色。綺麗な斜方の筋が入った断面。

見た目に反し軽く、しかし程良い重量感はある。

少し見る角度を変えると、また違った色と艶が美しい…

ルナの鉱物いしは、とても質の良い水辺でしか採れず、年間で採取できる重量も細かく定められ、基本的に採取できるのは私達工匠のみ。一般人は原則不可だが、研究等の特別な理由に限り、工匠の判断をもって可とする事はある。

ちなみに昔から、この類の話になると、街のおさよりも工匠の方が優位という暗黙の了解がある。要に、それだけ貴重なものなのだ。



何となく窓を開け、陽に透かして見る。

しかし、何が起こるわけでもなく、すぐに窓から離れ、椅子に掛けた。

……本当に、どうしたら良いんだ。


頭を抱えていると…


トントン


戸を叩く音がした。

私は誰が来たのか判っていたので、「どうぞ」と答える。

案の定、入って来たのは妻だった。

ここには、私と妻しか出入りする者が居ないからな。

妻は、きっと察している…「私には、お見通しよ」と言わんばかりの瞳を私に向け、手に持っていたティーセットの盆を軽く示した。

「貴方、少し休みましょう」


行き詰っていた事まで、彼女にはお見通しか。本当に妻には隠し事が出来ない。

私は観念して、懐中時計の蓋を開く。まあ、お茶をするには丁度良い頃合いだった。

部屋にあった丸椅子をもう一つ出し、妻に掛けるように促した。


妻が持って来たクロスを仕事机に広げ、ポットから〝いつもの茶〟を注ぐ。

庭で栽培してるハーブを使った、妻お手製のオリジナル・ハーブティーだ。

狭い部屋なので、すぐにふわっと良いこうが立ち込めた。ほっと、安心する心地好い香りに、私は気が鎮まるのを感じる。更に、彼女は茶と一緒に、まだほんのりと温かいパウンドケーキを出してくれた。生クリームが添えられ、クリームの上には小さなミントの葉が乗せられている。この葉も庭で育てているものだろうか。

私が皿を受け取り「ありがとう」と言うと、彼女は「私が作ったのよ」と自信ありげに軽く笑った。

少しの間、お茶を楽しむと、私は「そう言えば、棕矢そうやはどうしたんだ?」と、気になって訊ねた。すると妻は「珍しく、お昼寝中ですよ」と、今度は優しく微笑んだ。

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