第3話 テンプレの呪いが強すぎる


「なんでぇー! 婚約破棄は!? 私の悪役令嬢物語は!?」


 猛抵抗もむなしく純白のウエディングドレスを着せられてしまった私は、両手で頭を抱えた。ちょっと神様、どういうこと!? テンプレな感じの転生でお願いって言ったよね!? そりゃあ、なんか難しいみたいなことをごにょごにょ言っていた気もするけれど……。


「いい加減諦めなさい、ピエニャ。エモート君は……ほら、面白い青年じゃないか」


「フォローが苦しいわ、お父様」


「ピエニャ、あなたを貰ってくれる男性なんて貴重よ。このまま愛を誓っていらっしゃい」


「どういう意味なの、お母様!?」


 お父様もお母様も、お兄様もお姉様たちも、口を揃えて「いいから嫁げ」と言う。一人くらい私の夢を応援してくれてもいいのに! ふてくされていたら、控え室の扉が空いて、ファサァが顔を覗かせた。


「おお、邪魔者は退散しようか」


「そうね。ピエニャ、あとでね」


 途端にお父様たちはそそくさと出ていってしまい、私とファサァだけが残される。白いタキシードに身を包んだファサァがやたらと格好良く見えて、私は両手で頬をペシペシ叩いた。しっかりしろ。このトキメキは呪いよ。


「化粧が崩れて腫れてしまうよ? せっかく綺麗なのに」


「はぇ!?」


 寄ってきた彼に手首をつかまれ、胸の下で心臓がぴょこぴょこ飛び跳ねた。恥ずかしくて彼を直視できない。悔しい。こんなはずでは……っ。


「どうして婚約破棄してくれなかったのっ!?」


「うん? 君はいつも婚約破棄を持ち出すけど、逆にどうして婚約を破棄しなきゃならないんだい?」


「お決まりの流れなの! 一回破滅してから別のイケメンと幸せになるの!」


「ふうん、そんなこと言って。好きだろう? 僕のこと」


「ふぇ……っ」


 白い手袋越しに、手の甲に唇を落とされた。茶目っ気たっぷりのウインクに体温が上がる。この流れはまずい! どうにか話題をそらそうと考えて、はたと気がついた。


「ていうか、あんた、『ファサァッ』はどうしたの?」


 控え室に入ってきてから、いつもの台詞を聞いていない。一人称のトーンも若干違うような。ファサァは私の手をとったまま、にこりと笑った。


「ああ、結婚するならもういいかなと思って止めたんだ」


「どういうこと!?」


「ほら僕、顔がいいだろう?」


「自分で言うか」


「しかも頭も良くて運動もできるしトークも面白い。普通にしていたら間違いなくモテる」


「自分で言うのか……」


「姉が五人もいるせいか、女性とは面倒なものだと幼心に刻み込んでしまった僕は、一計を講じたのさ。モテなそうなキャラ作りをすればいい、婚約者殿には『君を愛することはない』と言ってもらえば浮気の心配もしなくていいだろう、と」


「つまり私をハメたのね!?」


「それについては謝ろう。悪かった。だが後悔はしていないよ。君のように楽しい人を妻に迎えられるのだから」


 優しげな笑みでじっと見つめられ、ついたじろいだ。ちょっと思考がついてこない。うん? どういうことだ? えっと??


「え、あんたが私を好きみたいに聞こえるんだけど……?」


「そうだよ?」


 きょとんとされたけど、その顔をしたいのは私のほうだ。そんな素振りなかったじゃん!? 目を瞬いていたら、ファサァが苦笑気味に表情を崩して、固まっていた私の額に口づけた。


「肝心なことを伝えていなかったね。僕は君のツッコミの心地よさに惚れこんでしまったのさ。君と歩む人生は間違いなく楽しい。ピエニャ、君が好きだ。僕の伴侶になってくれ」


「う、うう……」


 心臓がどくどく鳴っている。自分の顔が赤い自覚もある。だってしょうがないじゃないか、前世を含めたって、こんなにストレートに告白されたのは初めてなんだから。


 でも、でも、私がなりたかったのは悪役令嬢であって、こんな『君を愛することはないテンプレの呪い』に屈するような展開は受け入れ難いっていうか――あっくそう顔がいい――いや、やっぱり納得できない!


「こんな『ぴえんな展開』は嫌!」


 ぐっと手を握りしめて顔を上げたら、額がファサァの鼻にごちんとぶつかった。


「負けないわ! こうなったら『離婚から始まる悪役令嬢』っていう新ジャンルを開拓してやるんだからっ!!」


「はっはっはっ、目標にまい進する君は面白いから、好きにしたまえ。……ま、離婚する気なんてないけどね」


 鼻を押さえた彼とぎゃあぎゃあ騒いでいたら、私たちを呼びに来たスタッフさんに、「夫婦めおと漫才は式の後でお願いできませんでしょうか……」と言われてしまった。


 ぐうう、負けるもんですか。

 私の悪役令嬢物語はこれからよーっ!!





(終)



---

さっさと諦めれば幸せになれるのにねえ。

(*´・ω・)(・ω・`*)ネー


主人公=ピエニャ・パオール←ぴえん超えてぱおん

お相手=エモート・ティコン←emoticons(顔文字)


ほらお似合い。


読んでくださってありがとうございました。もし少しでも笑っていただけましたら、感想や★★★をいただけるととても嬉しいです。


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