第22話 ミッション5:学年一位ノ美少女ヘノ告白ヲ阻止セヨ

お知らせ

「小説家になろう」でも連載を始めました。

※なろうではタイトルとサブタイトルを少し変更して掲載しております。


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 突然だが、皆は「世界の陰キャ事典」という僕のベストセラー書籍を知っているだろうか。累計発行枚数はこれまでに約7億8000万部を僕の脳内で突破している、陰キャの入門書で、陰キャの生態などが事細かく記されている。


 それによると、陰キャはまずこの二種類に大別される。


 ひとりが好きな陰キャか、ひとりにならざるを得ない陰キャか。


 前者はコミュ力的には申し分ないのだが、人との関わりに嫌気が差しぼっちを好む人種。対して後者は性格故に人と関わることが苦手で、不本意ながらぼっちになってしまう人種。皮肉にも後者は陽キャになりたい欲が強いのもミソだな。 

 ちなみに僕は、自分で言うのもなんだが前者寄りだと思う。一応、天束さんたちとなら異性とでもコミュニケーション取れるしな。

 望めば他の女子たちとも……なんだよ!向こうから話しかけられないだけだ!話そうと思えば話せるんだよ!(陽キャ以外)


 話が逸れたが、陰キャの典型例はこうだ。


・基本的に受動態

・自己肯定感が低いくせに自分に甘い

・人塵苦手

・コミュ障

・豆腐メンタル

・目上の人には「すみません」と「ごめんなさい」多用しがち

・気まずくなったら息吸いがち

・嫉妬しがち

・マウントとりがち

・異性にはめっぽうキョドりがち

・ネットでは活性化しがち。

・人の印象が手のひらくるくるしがち

・黒歴史を量産しがち、そして不意打ちにフラッシュバックしがち

・好きなことの前にはリミッター外しがち

・どうみても陽キャなクラスメイトが同じ趣味または思考を持ってるとココロオドりしがち。

・そんで仲良くなれると思い上がりがち。


 ……等々。ほかにもいろいろあるが、あんまり抽出しすぎると日が暮れてしまう。とはいえ全部が全部当てはまるわけじゃないけどな。


 そしてこの中からふたつ以上当てはまったらキミはもう陰キャだ!気を付けろ!(※僕調べ)。


 だけど当てはまったところで僕から言わせれば「だからどうした」に尽きる。

 

 どんなに陽の当たる世界の人間が気味悪がろうが、僕らには僕らの世界がある。

 僕らの世界は光の届かない暗がりだが、そんな場所にも色とりどりの美しい鉱石が眠ってるんだ。


 僕らはその鉱石たちが光に当たらないよう大切にしていけばいい。こっそりと磨き続け、綺麗な宝石にすればいい。


 陰キャだって個性だ。陰キャだって生きざまだ。


 そう、陰キャこそが世界を陰で統べる者なのだ──!!!




 いや、陰キャってやっぱゴミだわ。


「ひめちゃん似合ってるよ!」


「うん、ひめの可愛さが光る髪型だね」


「へへへっ、ありがとう二人とも」


 授業開始前ギリギリに教室に飛び込んできた天束さんが、イメチェンしてきた。ずっと黒髪セミロングを貫いてきた天束さんが、ポニテにしてきた。


 天束さんのイメチェンはゲームで言えば期間限定キャラのSSR超えの奇跡とも言える確率。カースト下位の同胞たちからの生暖かい視線はさながら、普段はまったく天束さんと関わらないカースト上位グループの男女までもが天束さんを思わず一瞥。

 天束さんはクラス中の視線を射止め、ここに中宮三代美少女の美貌を再び知らしめたのである。


 ただ、そこでカワイイねーとか声をかけられないのは天束さんらしい。声をかけたも陽キャも何人かいたのだが、天束さんがビーバーのような絶叫を上げたので気味悪られて去っていくだけで終了した。


 僕と言えば、さっきからずっと視線が天束さんに向いている。普段だったらこんな不審者行為を僕は許すはずがないのだが、今日ばかりは目が離せない。

 おかしい、言ってしまえば髪を結んだだけなのに、なんで天束さんに欲情してしまうのだろうか。なんで天束さんでけしからん妄想をしてしまうのだろうか。結局僕みたいなクソ陰キャはカワイイ女子前にはどうしてもそっちの方向へ持って行ってしまう。


 だが、それも今日で終わりだ。天束さんとはもう友の契りを交わした関係。そんな目をしていい相手ではなくなったんだ。

 

 友達として、もう二度と天束さんにキモイ目を向けないために。僕は天束さんに言おう「髪型カワイイね」と。


 チャイムが鳴った。三人はそれぞれの席に戻り。天束さんも自席についた。だけど、天束さんは僕をチラ見しつつ前を向くを繰り返している。いつもの挙動不審な天束さんだ。


 やっぱ天束さんくっっっっっっっっそカワッ!!!!!!


 いけないいけない。理性を失うところだった。


「よし、じゃあ教科書81ページを開いて」


 天束さん、髪型について聞いて欲しいのか?

 だったら言うぞ。カワイイって言うぞ。あくまで友達としての礼儀だ。決してそのような感情が口からぽろっと漏れ出したわけではない。


「あ、天束さん。その髪型」


「じゃあ天束。このページから読んでみてくれ」


「ひ、ひぇひゃ!?」


 天束さんは奇声を上げながら反射的に立ち上がった。その声と挙動にクラス全員が震撼する。


「す、座ったままでいいぞ?」


「す、すみません!!」


 天束さんはびくびくしながら腰を下ろすが、その机に教科書はない。


「ん?教科書ないのか?」


「すみません」


「そうか。じゃあ、鵜方。天束に見せてやれ」


「は、はい」


 天束さんが机を寄せてきたので、僕は先生の指示通りに教科書を僕と天束さんの机の間に置く。

 天束さんが指定の文章を噛みまくりながら読みあげた後、先生による解説が始まった。


「天束さんが教科書を忘れるなんて珍しいね」


「ごめん。鵜方くん」


「き、気にしないで」


 もしかして、さっきのは教科書を貸して欲しかったからなのか?な、なにやってんだよ僕。やっぱ邪なこと考えてるじゃないか。察してやれよクソ陰キャ!


「髪型選んでたら、教科書入れる時間なくなっちゃったの」

 

 天束さんはすっからかんのリュックサックを見せてくれた。イメチェンの代償がエグすぎる。

 まぁ、女子は身だしなみを特に気にするだろうからな。天束さんも例外ではないか。


「でもなんで髪結んできたの??」


「いつものあたしだったら気が引けちゃうけど、なんか、今日だけ気分乗っちゃったというか……なんでだろ……」


「へぇー。いいね」


「でも、髪型変えたことなかったから、忙しいお母さんに手伝わせちゃったし……ツインテとか、みなちゃんとお揃いのハーフアップも考えたけど、結局どれもあたしには畏れ多くて、最終的にポニテで落ち着いちゃった」


 お洒落に疎い僕にはわからんが、確かにポニテは無難っちゃあ無難な髪型だよね。それでも僕には眩しいくらいお洒落だけど。


「似合うよ。すごくカワイイと思う」


「ありがとう。二人にも喜んでもらえたし、勇気出して良かったって思えた。ちょっぴりだけど」


「次は天束さんのツインテとかも見てみたいかも」


 な、ななななな何言ってんだ下心丸出しの発言を!!


「わ、わかった。今度、ね。勇気出してみる」


 天束さんが鼻息をフンスと荒げながら今日も一日頑張るぞいっごのポーズを取っている。やめてくれ僕には眩しすぎる。同種族扱いしたことを一生かけて呪いたい。


 *


 現代文の授業が終わった小休憩。次の授業の教科書を用意してた僕に、焦茶髪の脳内ホワホワお化けがやけに笑顔で話しかけてきた。


「よっちゃんよっちゃん」


「どうした?」


「よっちゃん知ってる?女の子のイメチェンはね、だいたいキュンキュンする出来事があった次の日にするものなんだよ?」


「はぁ!?」


「もう、何が言いたいか分かるよね?」


 湊が犯人を追い詰める刑事のようなトーンで突き詰めてくる。急になんだよ!なんてこと言い出すんだよ!


「まっ、まさか……ご褒美」


「ほんとにー?」


「ほんとにって?これがお前の言ってたご褒美じゃないの?」


「それだけかなー?キュンキュンだよキュンキュン!もしかしてひめちゃんは……」


「そんな黒歴史共有しただけでキュンキュンなんてあるわけないだろ」


「ほんとに?それだけ?」


 たしかに最近はいろいろあったが、キュンキュンする出来事とは言い難いだろう。

 強いて言えば洞窟の中で天束さんとふたりっきりで『復讐の勇者エース』トークをしたり、階段から転げ落ちる寸前の天束さんを抱きしめるように受け止めたり、二日連続でふたり一緒に飯食ったり、キュンキュンなんてどこにも……


 あれ?


 どれも咄嗟にとった行動だけどキュンキュンしないとは言い難い。だ、だとしたら天束さんは……いやないだろ。天束さんは僕になんの感情も抱いてないと証明されてるし。


 それにコミュ障を併発する陰キャの多くは、相手のことを考えるよりまず自分がうまく話せてるかどうかを気にしてしまう傾向にある。天束さんはおそらくその系統だろう。僕がいろいろサポートしてやんないとな。


「心当たりある?」


「ないよ全く」


「ふふん、ひめちゃんに聞けば済む話なんだけどね~。あれ、ひめちゃんは?」


「天束さんなら教科書のコピーを貰いに、あっ、戻ってきた」


 ん?教室にえらい量のコピー用紙を抱えて入ってきた天束さんだけど、なんだかよそよそしいな。コピー用紙に顔をうずめているが、ポニテなせいで耳が真っ赤なのは丸わかりだ。


「おやっ?あの反応は」


「何か知ってるのか?」


「ちょうどいい機会。よっちゃん、ひめちゃんと友達になったからには、よっちゃん

にも覚えてもらわないとね」


 覚える?何をだ?


「助けてみなちゃん!あたし……」



「「?」」


「また一年生に告られそう」


 はっ??????????????〇すぞ????????????

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