第19話 ミッション4:学年一ノ美少女トボッチ飯ヲ共有セヨ 《達成度20%》

「それでさぁー今日の朝美桜が……」


「マジ?やばくね!ウケる」


 天束さんの席を、別の陽キャ女子グループが占領している。


「あっ」


「うっ」


 あそこの位置は普段、天束さんたちが陣取っている。いわば縄張りテリトリーだ。

 が、今日は教室に鳥羽さんの姿もなければ、湊も別の女子グループと食事をしている。なので彼女たちは絶好のチャンスとでも思ったのだろう。当然ながら僕の席も奪われているわけで。

 彼女たちはクラスのカーストトップレベルの陽キャ女子だ。メンバーのひとりは天束さんのひとつ前の席、僕も掃除の班が一緒なのでほんの少しだけ接点はあるが……

 

 一生の不覚。ていうかいつもの僕、天束さんたちがあそこで飯食ってたおかげで居残りくらっても自分の席取られずに済んでたんだな。


「どうしよっか」


「こ、声かけるなんて無理ぃ……」


 天束さんが口に手を咥えてわなわな震えている。こりゃダメだな、僕もあの手の女子には近づくのは避けたい。

 幸い弁当はロッカーに置いてある。家庭科の荷物もロッカーに詰めて、今日は別の場所で食事を済ませるしかない。


「うぐっ……」


「天束さん!?」


 なんだか天束さんの様子がおかしい。側頭部に両手を押し当て悶絶している。


「ご、ごめんなんでもない」


 席を取られたことによる黒歴史のような記憶が蘇ったのだろう。陰キャあるあるのサブリミナルフラッシュバックだ。


「天束さんはどこで食べる?鳥羽さんと?」


「鳥羽ちゃんは今日、図書委員会の会議でいないの、みなちゃんも別の人と食べてるみたいだし」


 え?天束さんまた『負け確』?暴露した対価えぐすぎない?神様は美少女にも無慈悲なのか?


 さりげなく湊を一瞥すると、湊も僕と目が合ってウィンクしてきた。あれは天束さんをよろしくって合図だな。

 待てッ!湊は天束さんが家庭科室で居残りすることを知っていてさっきの言葉をかけてきたのか?アイツ普段アホなのにこういうとこ冴えてるな。


 なら仕方ないか……


「じゃ、じゃあ今日も一緒に食べない?僕も席取られてるし」


「えっ、あっ、うん。食べよっ」


「ど、どこで食べる?」


「あっ、えっと、じゃあ……」


 天束さんにおすすめの場所があると言われ、僕はついていくことにした。

 廊下を少し歩いて、中央階段を最上階まで登った先。そこは、屋上へ繋がる扉の前に広がる小空間。

 前も天束さんを探しにここへ来たが、ここが天束さんの隠れ家のようだな。埃っぽいが昼食が取れないほどではない。倉庫代わりに使い古された椅子などが放置されているのも評価点だ。

 天束さん、湊と鳥羽さんに会うまではこんなところでぼっち飯してたんだな。


 しかし──


「だ、誰かいる……」


 屋上の外から複数人の女子生徒の話し声が聞こえる。

 前提としてこの学校は屋上へ進入禁止だ。なのに聞こえるということは幽霊?……じゃなくて不良だろう。

 ここで飯食ってると邂逅した時厄介だな。別の場所にするか。


「や、やめよっか」


「う、うん」


 次に、僕たちは校舎を出て適当に人気のない場所を探した。だが、校庭前の広場からそこかしこまで、弁当片手に談笑する生徒たちでごった返している。

 昼時に校舎を出たことはなかったが、こんなに混んでたとは。校庭沿いに続く桜並木の道のベンチで飯食ってる生徒はほとんどがカップルか陽キャだし。


「食べるとこないね。C棟でも行く?」


「そ、そこは最終手段」


 今更だが、僕は前を歩く天束さんと少し距離を取って跡を追っている。ストーカーに間違われないよな?


「あの、そろそろ適当に決めよ……」


「あった」


 天束さんに案内されてやってきたのは、学校の正門近くの体育倉庫裏。


 じめじめしてて虫が多いな。しかも目の前にはフェンス越しに街道があり、通行人にガン見される。とても男女二人で食事を囲む場所ではない。これならC棟の方がマシかと思うが。


「あ、天束さん、ここは……」


 と思ったが、天束さんはそこら辺に腰かけるわけでもなく素通りしてしまった。体育倉庫の隣には体育館があるのだが、そこまで行くと窓越しに体育館内の生徒に見られる危険性も高い。一体どこで食べるつもりなのだろうか。


「ついた」

「え?」


 体育館の裏口近くに、一本の木が植えられてる小空間。相変わらずフェンス越しに道路が見えるが、選挙掲示板でイイ感じに外界とは遮蔽されている。


「6月だしさすがに葉桜だね」


「これって桜なの?」


「うん、一本だけこんな所に生えてるんだ。おかしいよね」


「へ、へぇー、そうなんだ」 


「ここ好きなんだ。イイ感じにジメジメしてるし、イイ感じに桜の木から木漏れ日が差し込んでくるから」


「相変わらず虫多いけどね」


「い、いやだった?」


「そ、そんなことないよ」


 これ以上場所を探しても昼休み終わっちゃうし、ここにしようか。とはいっても地面は土。昨日は雨が降ってたので水溜りも散見している。

 そうなるとレジャーシートを持ってるはずもないので、お互いしゃがみ込むというシュールな姿勢で昼食を取ることになるな。裏口の前にひとり分が座れそうなコンクリートの段差がある。ここは天束さんに譲ろう。


「天束さん、僕はしゃがんで食べるからそこの段差使いなよ」


 そう声をかけながら天束さんを見ると、天束さんは桜の木にもたれかかりながら地べたにベッタリと座り込んでいた。


「えっ、あっ」


「あっ、あたしは平気。鵜方くんが使って」


「き、汚くない?」


「え?」


 アリとかめっちゃいそうだけど。虫平気なのかな。


「ひぎっ!?」


「天束さんの首元、アリの巣あるけど平気!?」


「だ、だだだだ大丈、び……」


 天束さん、自分で座ったのにめっちゃびくびくしてる。結局、段差は天束さんに譲って、僕は立って弁当を食べます。


「虫苦手なんだね」


「そ、そんなことないよ……ダンゴムシは、カワイイし」


「僕も虫苦手だからお互い様だよ」


 天束さんのスカート、土で汚れてそうだな。気が抜けているというか、本人はきょどっていて気づいてないみたいだし、後で声かけてあげないとそのまま教室に戻りそうで怖いな。


「でもよくこんなところみつけたね」


「入学式当日に見つけたの。学校で黒歴史大量生産したときによく、逃げ込んでた。ここの木の下に座ってたら、なんとなく落ち着けて」


「そ、そうなんだ」


 そういえば天束さんを見かけると、たまにスカートの裏に土がついてる時あったけど、そう言うことだったんだね。なんだか不憫だ。


「でも、最近は土ついてる天束さん見かけなくなったね。やっぱり湊と鳥羽さんが……」


「ふぇ……!?」


「あっ」


 どうやら僕はまた、爆弾発言を繰り出してしまったらしい。天束さんは顔を真っ赤にしながら立ち上がり、スカートの裏を一心不乱に叩いている。


「あ、ああああ、あた、あた、あた、あたし!?」


「落ち着いて天束さん!今まで触れられなかったってことはみんな大して気にしてないと思うから!」


「ででででもみんな陰であたしのこと……」


 あー、僕のせいで天束さんが自虐モード入ってしまった。


「い、いつ頃までこの場所に逃げてたの!?」


「こ、ここ来たの一年ぶりくらいで、最近はめっきり来てない……」


「じゃあみんな覚えてないよ!大丈夫!大丈夫だから!」


「でも鵜方くんは覚えてた……」


「うっ」


 その通りです。言い返すこともできん。


「えっと、最近めっきり来てないってことは、居場所ができたってことだよね?」


「え?」


「この場所に逃げ込まなくても、落ち着ける場所が……ほら!湊と鳥羽さん!」


「でもあたし、みんなに醜態晒して……く、黒歴史」


 なんとかイイ話で誤魔化そうと思ったけど無理でした。そりゃそうだよな、気が抜けてるで済まされる問題じゃないわな。いや、天束さんなら十分なギャップ萌えになるかもしれん。


「ぼ、僕はスカートの裏に土がついてる天束さんもカワイイと思うよ」


「はぇ!?」


 衝動に駆られてキショ発言を!!!


「い、いやみんな思ってるんじゃないかな。男子とかみんな。天束さんはどんな姿でもカワイイ!」


「それとこれとは話が違うよ……」


 だよねぇ……


「あっ、あのさ。もう一回、桜の下に座ってみない?」


「で、でもまた土が」


「そんなの叩けば平気だよ!桜の木の下なら、落ち着けるんだよね?」


「う、うん」


 天束さんは渋々とそこに腰掛ける。でも、その顔は晴れるどころかどんどん青白くなっていく。


「無理ぃ……」


「だ、だめか」


 天束さんを落ち着かせるために孤軍奮闘して数分後、予鈴が鳴った。僕と天束さんは昼飯を食べきれずに昼休みが終わった。


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