第15話 緊急ミッション:学校一ノ美少女ト帰リヲ共ニセヨ 《達成度80%》
「ご、ごめん……ひとりの気分だった?」
「あっ、ち、違う。ごめん動揺しちゃっただけ、帰ろ」
奇声を上げて反射的に顔を覗かせてくれた天束さんだけど、僕の提案には素直に頷いてくれた。さて、ここからが本番だ。友達として初めて、天束さんと帰るぞ!
「あっ、新しく部活は入らないの?」
「む、無理だよ。もうどの部活も募集してないだろうし、自分から行くのは、ちょっと気が引ける」
「募集してるとこもあったよ。どこだっけな、確か、陸上部と、オカ研……」
「あたし運動できないし、後者は論外かな」
「だよね、僕も」
「ははっ」
「あっ、あははっ」
「……」
「……っ」
キャッチボール終了。そのまま沈黙が僕たちを支配する。
天束さんは終始前方に目線を合わせていてこちらに目を合わせてくれない。話題を漁ろうにも僕の脳内インターネットはポンコツなので、天束さん前だと何を検索かけようが、返ってくるのは「天束さんカワイイ」だけだ。こればっかりはクソ陰キャな自分がほんと嫌になる。
結局、僕らは互いに無言のまま、学校の最寄駅まであと少しのゲーセンに差し掛かってしまった。
だが、ここで僕はあることを思い出した。
ゲーセンのガラス越し。手前のクレーンゲームの景品として置いてあるフィギュア。それは僕も天束さんも知っている人気漫画、「復讐の勇者エース」の登場キャラクターのひとり、モンスだ。
「そうだ!今日エースの新刊の発売日なんだけど、帰りちょっと買いに行ってもいいかな」
「あっ、あたしも買いたかった。駅前の本屋、残ってるかな」
「残ってると思うよ。じゃあ行こうか」
寄り道を決行し、僕はゲーセン前の駅へ繋がる横断歩道を渡らずに大通りの歩道を直進する。このまま真っすぐ行けば本屋があるのだ。
僕の脳内にエースを添加したことで、ポンコツ脳内インターネットは活性化。そこからは話題に困らなかった。いや、何度か沈黙したけど僕が必死に話題を検索して乗り切った。
「じゃあモンスは死ぬかぁ……」
「うん、エースの大五式『
「あれ?モンスも第五式使えなかったっけ」
「モンスが使えるのは第四式『想幻』までだよ。いくら『想幻』でも万物あらゆるものをぶった斬る『斬神』には分が悪い。負け確だと思うよ」
「マジか、モンスにはもう少し味方でいて欲しかったんだけどなぁ」
負け確、負け確か……
「そういえば、昼休みに天束さんが言ってた、負け確って結局どういう意味だったの?」
「ひゃぴっ!!!!!!」
ふと気になったので聞いてみると、天束さんは今日一番の奇声。天束さんの背筋が興奮した猫のようにぐわんと反った。天束さんの表情七変化は見ていて飽きることはない。
「ごめん、言いたくなければ言わなくてもいいよ」
「あっ、い、いやでも、このままじゃ鵜方くんに悪いし……えっと、その」
天束さんは、真相を長々と語ってくれた。
「あたしね、性格がオワってるから、クラスでぼっちでいる人のことを『負け確』だと嫌煙してたの。だけど部活辞めちゃって、みなちゃんと鳥羽ちゃんと一緒に帰れなくなって、『負け確』になっちゃった。それで今日『負け確』のあたしが嫌で嫌で仕方なくて、現実逃避のためにヘッドホンで音楽大音量で流しながらスマホ見てた。でもそのせいで五十鈴川くんにも鵜方くんにも迷惑かけちゃったし。な、なんだろう。『負け確』とかあたし、ほんと、クズだよね」
ぼっち=『負け確』か。つまり僕や同じクラスの山田さんたちのことを『負け確』だと決めつけてたんだね。
天束さんは、このクラスになった当初から湊と鳥羽さんという友人がいたし、僕たちとの差で優越感に浸ってたってことか。なんだろう、ほんとになんだろう。声を大にして言いたい。
天束さんは恥ずかしがってるのか僕に目線を合わせようとしてくれない。
「ごめん、今日、帰るね」
「え?エースは?」
「だ、だって、こんなクズと、鵜方くん一緒に居たくないでしょ」
お、重いなぁ。
「まっ、まって確かに天束さんはクズだよ!」
「……っ!?」
やべっ、僕なんてことを!あっ、天束さんがまた泣き顔になってしまった。足早に立ち去ろうとする天束さん。でも、僕の心の声と裏腹に体は勝手に動いた。
書店の前。自動ドアがさっきから開閉してるが、僕は道を引き返そうとした天束さんの肩を握り引き留める。
「うぎっ!?」
「あっ、ごめっ」
勢いあまり肩を力強く握ってしまったせいで、天束さんを怖がらせてしまった。天束さんはマリンブルーの瞳を潤ませながら、息を吐くような声音で、
「……なに?」
「く、クズだけどさ。めっちゃ共感できるんだよね。だって
い、今なんて言った?よもや天束さんと僕を同種扱いした?死にたいのか?天束さん親衛隊に処刑されたいのか?ちなみに親衛隊のリーダーは(自称)僕だ。
「ご、ごめん。人を陰キャ陽キャと決めつけるのは失礼だよね」
「し、失礼じゃない……いや、失礼か。だ、だって鵜方くんもおんなじ、でしょ?」
「はははっ、僕は陰キャなくせに『趣味の合うヤツ以外は友達になれない!』とか謎のポリシー抱えてる中二病なんだよ。だからひとりも友達いないんだよ参ったな」
「と、友達だよ、あたしは」
え?
「あたしも同じ陰キャで、根が腐ってて、趣味の合う、ほら、と、友達」
天束さん、そんなこと言ってくれるんだ。
「ごごごごごごめんあたしなんかが」
「失礼はお互い様だね」
「う、うん」
「……ど、どいてくんない?」
やべっ、本屋から出て行く人の道を全力で塞いでた!!
「「ごごごごごごめんなさい!!!!!」」
僕は二人して謝った。さっきからずっと謝ってばかりだな僕ら。
その人は特に責めてこなかった。助かった。
ついでにその人の手には、エースの最新刊が握られていた。
一瞬だけ話せば友達になれるかもしれないと思ってしまった。
それは天束さんも同じようだった。
僕らは二人で笑いあった。
「買いに行こうか」
「うん」
僕は天束さんと一緒に本屋さんに入る。ここから先は共通の趣味に溢れた
ちょっとだけ、天束さんとの距離が縮んだ気がしたような。
店内では、何度か沈黙が流れた。
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