第13話 ミッション2:人気ノ女子グループト食事ヲ楽シメ 《達成度20%》

「勉強したおかげで赤点回避だぁー!」


「おめでとうみな、この調子で他の教科も……」


「やだー。もうしばらく勉強はしたくないー」


「次の英語のスピーキングテストも頑張ってね」


「お、オワッタ……英語もデンジャラスめだった……」


 昼休みも隣の席は騒がしい。近くの机を寄せ集めただけの簡素な空間で鳥羽さんと湊が談笑し、天束さんがそれに相槌を打つするいつもの日常。横でひとり寂しく弁当を頬張っている僕ですらも、まるで巨大スクリーンで日常系アニメを眺めている気分させてくれる。


「ひめちゃんはどうなの!?今日のテスト、あと英語は!!」


「あ、あたしは……その……」


 友達大作戦の内容を話してた時、湊は天束さんが居心地悪そうと弱音吐いてたけど、今みたいに好き勝手に話題を投げまくる姿はとてもじゃないがあの時の湊と同一人物には思えない。

 でも、天束さんに話しかける回数は増えた気がする。アイツなりに考えてんだな。


「ひめはちゃんと勉強してるでしょ。みなとは違うの」


「えー、みな、ひめちゃんは一瞬だけ仲間だと思ったんだけどなー」


「そんなわけないでしょ。諦めて勉強しなさい」


 天束さんが勉強苦手だってことは二人は知らないのか。そのおかげで天束さんの肩身が一層狭くなってる。

 あと時折、秘密を握ってる僕に目配せしてくる。言うなってことかな?


「よっちゃんも一緒に食べたいの?」


 天束さんの秘密は僕だけが握っている。湊と鳥羽さんですら知らない秘密を。秘密の共有なんて友人関係を締結しているからこそ発生するイベントだよな。本当に友達になってしまったのかと実感する。なんだか胸の奥から淡いものが溢れてきた……こころなしか、涙が……


「よっちゃん?ねぇよっちゃん?」


 任せてくれ、天使のような寝顔を常時見せてくれる対価だ。天束さんの秘密は僕が絶対に守る。


「おーい、よっちゃーん。よっちゃん聞いてるー?」


「へ?」


 なんだかこのクラスではありえない僕の名前を連呼する声がしたので、慌ててその声の主に視線を移した。


 み、湊か……ヤツは手をぶんぶん振りながら物珍しそうに僕を見ている。

 天束さんたちと話してたはずだろ。なんで湊たちの世界線に僕がいるんだ?


「な、何?」


「だーかーらーよっちゃんもみなたちと一緒に食べたいの?」


「そっ、そそそそそそそそんなこと全然思ったりしてませんが!?!?!?」


「だってあたしたちのこと見てたし、一緒に食べたいのかなーって」


「たまたま目線が合っただけでそんなの烏滸がましいよ!!!!!」


「烏滸がましい?」


 や、やらかした!一瞬だけ天束さんを見ちゃったからか!てゆうか今日の湊、僕のことよく観察してるな!

 だが、これからどうする。このままだと美少女三人をオカズに飯食う不埒者と見られかねん。


「ひめちゃんもよっちゃんのことちょくちょく見てたし。あっそっか!せっかく友達になったんだからお昼ご飯くらい一緒に食べたいよね!気づけなくてごめん!」


「えっ……」


「な、何言ってんだよ!?」


「みな?」


 なんだか変な解釈されたが不審者扱いされていなかっただけマシか。

 いやに強引だな。まさか先日の友達になろう作戦はまだ続行してるのか?


「いいよ。僕みたいなやつと机くっつけてもつまんなくなるだけだろ」


 僕はこの青春日常モノの傍観者でいたいんだ。決して登場人物に加わろうとは思っていない。


「そんなことないよー!さっさと、こっち来いやー!」


「えっちょ」


 湊は昼飯そっちのけで僕の机の前にどしんと構えると、あろうことか机の端に手をかけてズルズルと引き摺り去ってしまった。当然昼飯も持ってかれたので僕は椅子ごと動かざるを得ない。友達だけでなく仲良くなるまでが友達大作戦ってか?


 湊は一度始めたことは決して曲げない難儀な性格だ。諦めた僕は椅子と弁当を持ち青春日常モノに突入する。いいか、このままだと物語はハーレムモノに急展開を迎えてしまう。あくまでモブを意識しろ。主要キャラのひとりになってはいけない。友人Aでいるんだ。


「あ、あの、えっと、よろ、しく」


 ふたりとも反応が微妙だな……天束さんはまだしも、鳥羽さんは嫌悪感を抱いてないといいが。

 いつの間にか三人の空間は、僕の机が加わったことで小学校の給食時間でよく見る形態に変形合体していた。僕の席の前は湊、左横が天束さんで左斜め前が鳥羽さんだ。

 ニコニコしているのは湊だけで、鳥羽さんと天束さんはなんとも表現し難い絶妙な顔で僕を眺めている。鳥羽さんはちょっと哀れみも感じるような。


「さてじゃあお昼ご飯の続きー!」


「て言ってもあと十分しかないよ」


「はいひょうぶはいひょうぶ」


「みな、食べづらそうにしてどうしたの?」


「ゴクッ)気のせい気のせい」


 にしても気まずすぎる。恥ずかしながら高校に入学してから一度も誰かと食事をするという経験がないので、話題が見つからん。

 いやそれでいい、三人は僕抜きで食事を楽しんでくれ。青春日常モノがハーレムモノに変わってしまう前に、僕は友人Aとして早々にフレームアウトするぞ。

 だが、机を離そうにも何故だかびくりとも動かない。下を覗くと、つなぎ貫に湊が足を引っ掛けてた。湊さんえらい食べにくそうですが平気ですか?


 僕がこのグループに緊急加入したせいで周り(主に男)から注目されてるような気が……一部には百合の間に割って入る非常識なヤツとか思われてないよな。


「な、なぁ……心なしか周囲から視線を感じるんだけど」


「よっちゃん。ハーレムって顔してる」


「ししししししてないけど!?」


「あははははっ、分かりやすー」


「そんな!現実でハーレムなんて思ったりしないから!!!」


「ほんとにー?」


「ほんとだよ!」


 ハーレムにさせてるのはお前だろうが!お前が変な話題を切り出したせいで隣の天束さん若干引いちゃったぞどうしてくれんだよ。お弁当も白米しか残ってないけど気まずすぎて飲み込める気がしない。


「ハーレムって確か、男女比の偏ったグループ内で女性全員が特定の男性に対して恋心を抱くことを指す事象だよね」


 な、なんか鳥羽さんがハーレムの定義を真顔で語ってくれた。そんな解釈で合ってるのか?


「それなら気にする必要なくない?」


「心配って?」


「わたしたち、鵜方くんのこと特に何の感情も持ってないよ」


「みなもー」


「コクッ)」


 三人が一斉に頷いた。き、切り抜けたのか……?

 くそっ!こう言う時なんて表情すればいいかわかんねぇ!


「でも、いいのか?僕が、一緒って、それこそ、噂とか立つと思うんだけど?」


 当たり前だよ。今までクソ陰キャだった奴がいきなりクラスの有名人の異性三人と飯食ってるんだぞ。話題に上がらない方がおかしい。


「シッシッシ。言ったでしょ?よっちゃん」


「何を?」


「今のひめちゃんは容姿以外で話題に上げることはまずない影も影!必然的にみな達は、ひめちゃんのおかげでスクールカーストの下の下をキープしてるよ!いやーよかったよかったー。今更よっちゃんが追加されようと噂なんかたつわけないない!」


 某有名モンスター捕獲ゲームの博士のようなテンションで説明する湊。だが、無自覚すぎる湊に鳥羽さんは唖然とし、


「お、お前……天束さんの前で…‥」


「ご、ごめん……トイレぇ……!」


 天束さんは弁当そっちのけで、逃げるようにクラスから出て行ってしまった。

 僕が一時加入した昼食会は数分も満たないうちに幕を下ろした。


「おっ前なに唐突に天束さんのこと傷つけてんだ言葉くらい選べよ!?」


「みな、今のは流石に」


「ご、ごめん!わざとじゃないの!!!」


 湊はブンブン頭を上げて謝罪するがそこに天束さんの姿はない。


「な、なぁ今日のお前どうしたんだ?やけに行動的っていうか」


「鵜方くん」


「ん?」


「鳥羽ちゃ……い、いいいいいいだいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


 湊にヘッドロックをキメている鳥羽さんが、僕に話しかけてきた。


「ひめを、探してきてくれないかな。わたしはこのアホをどうにかしとくから」


「でも、天束さんがどこに行ったか、手がかりもなんも知らないし」


「ひめはひとりになりたい時、よく屋上の入り口にいる。今も多分、そこにいると思う」


 確かにあそこなら生徒たちの目がないしな。でも天束さんのことよく知ってるんだな。


「分かった行ってくる。湊にはよーく天誅下しといてほしい」


「了解」 


「ごめん〜いだだだだだだだだだッッッッッ!!!!!!」


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