第9話 ミッション1:学校一ノ美少女ト友達ニナレ 《達成度30%》


「そんなことより天束さんは平気?怪我はない?」


「えっ、あっ、な、ない、です……大丈夫」


 気まずいな。全然目を合わせてくれないし。


「よかった」


 怪我でもさせたら湊に蹴られるからな。


「あっ、えっ、うっ……くんは……その……あたしを探して……」


「なんて?」


「えっ、あっ、う……くん」


 『う』の後がこしょこしょ声で聞こえん。まさか名前覚えられてない?


「鵜方ですこんにちは」


「えっ、あっ、うっ鵜方くんね!し、知って……る……」


「あ……はは……」


「ははっ……」


 死ぬてこの空気。


「それで……えっ、えっと……」


 ここで天束さんを探してた!なんて言うべきだろうか。天束さんは僕がここにきた理由を勘づいてるだろうが、直接的に告げてしまえば天束さんが傷心してしまうかもしれない。

 

「湊探してたんだよ!アイツすばしっこいから気づいたらいなくなっててさ。天束さんも湊見なかった?」


「えっ?あっ、みっ、みて、見て、ない、よ」


 あれ?なんか天束さんの顔が一気に晴れた気がする。ていうか、涙?


「えっと、ここで何してたか、聞いてもいい?」


「えっ?あっ、そ、その……スゥー……」


 反応を見る限り迷ったのは明白であるが、恥ずかしくて言い出せないのだろう。と、僕は天束さんが体育座りしている地面に何かの模様を見つけた。


「天束さんの下にあるそれ……」


「えひゃっ!?こ、これは……」


 見ちゃいけないものを見つけてしまったようで、いつものびっくり芸(ひっくり返ったゴキブリ)を披露してくれた天束さん。反動で体を退けてくれたので、模様が露わになった。


 なんだこれ?魔法陣か?


「なにこれ」


「ああああああああたしじゃないでふ!!」


 天束さんは半泣きで全力否定しているのでおそらく真実なのだろう。


「はっ、はははははッ!こんなところに魔法陣?なんで?」


「え?わっ、わかん、ない、うん」


「ここ、なんかの遺跡?」


「わかんない」


「にしては日本にはなさそうな、中世の漫画みたいな魔法陣だし」


「あっ、あたしも、そっ、それ思った。えっ、エースとか、に、出て、きそう……って!ごめん、し、知らない、よね……なんでも、ない……スゥ……」


「天束さんエース見てるのッ!」


 話題発見!!!!!!!


 エースとは僕の愛読書でもある漫画『復讐の勇者エース』だろう。最近アニメ化した影響で巷で流行りつつあるので、天束さんが読んでいてもおかしくない。相手は天束さんだ。こうなりゃ僕の好き全開で進めさせてもらうぞ。


「え?あっ、う、うん。み、見てる。に、人気だし。小説ほど、じゃないけど、他の漫画とかも、嗜む程度は」


「マジか。僕、黄昏の塔でエースとモンスが戦うところ好きなんだよねー」


「あっ、あそこは名シーンだよね!た、たたたた互いの内情がふふふふふ複雑に絡みあったひっヒロイン争奪戦は見てて超熱かった、よね!!!!」


 おっ、だんだんと饒舌になってきたぞ。


「モンスがイリヤに恋してたの解ったとき鳥肌だった」


「あたしも!伏線貼られてたし薄々気づいては、いたけど……」


「マジ?すごっ!」


 そこから僕たちは、「復讐の勇者エース」を含むいろんな漫画の話を蛇行運転バリに逸らしながら続けた。若干、天束さんが僕に慣れない漫画の話を合わせていた感はあるけど、僕が見落としていた伏線とかを天束さんが解説してくれたりもしたので、普段のグループワーク以上に楽しめたつもりだ。


 そうしてスマホも見ずに数時間。ふと我に帰った僕が流石に出なきゃまずいと声をかけて、僕たちは洞窟を抜け出した。僕が来た道を戻ると後ろの天束さんがなんだか冷や汗をかいていたが、なんだったのだろう。外に出ると、眩しい太陽の光が差し込んできた。


「やっと外、出れた」


「ご、ごめん……あっ、あたしが、いっぱい、話しすぎた、せいで」


「いやいや、充実した時間だったよ」


「こ、こちらこそ」


 やっぱり陰キャは日陰を好むんだね。まさか二時間も経過していたなんて、洞窟の中にいるときは時の流れを感じなかった。お昼も食べてないし、お腹すいた。


 スマホのバイブがうるさかったので見てみると、湊から20件以上のメッセージと着信履歴が届いていた。湊は僕が洞窟に入った後から十分感覚でメッセージを送っていた。出た瞬間に鳴り始めたので中は圏外だったようだ。

 電話してみると湊たちは駅前に戻ったらしい。すぐに来いとの知らせだったので僕らは急いで駅に向かった。


「天束!!!」


「ひめちゃん!!」

「ひめ!」


 駅前のコンビニ前には湊と鳥羽さん、そしてどう見ても野球部の丸刈り男が慌ただしくスマホを触ったり辺りを見回していた。あれは文学研の部長だ。

 部長は天束さんを目に留めると、血相を変えた顔で一目散に近づいてきた。

 

「天束、単独行動は禁止とあれほど……誰?」


「あ、天束さんのクラスメイトです!たまたま一緒になって」


「そうか」


 この部長、天束さんを見てもやけに冷静だな。もっと焦ってもいいだろうに。


「天束」


 天束さんを凝視する部長の剣幕が重い。隅から覗いてる僕でさえ涙が出てきそうになる。

 

「は、はぃ?」


「今日限りで来なくていいぞ」


 どうやら部長は腸が煮えくり返っていたらしい。

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