第8話 ミッション1:学校一ノ美少女ト友達ニナレ 《達成度10%》


 僕らのような陰キャは、「ぼっち」という現象をわりかし忌避する種族だ。


 なぜなら、青春という場においてぼっちは敗北者の烙印を押されてしまうから。

 結局はそれは誰かにではなく、自分の妄想なんだけど。

 しかしながら群がる勇気もなく、結局はぼっちに落ち着いてしまう。


 一方、「ぼっち」を命じられるのは悪い気はしないし、むしろ脳内で狂喜乱舞するレベルだ。


 * 


 天束さんが消えた、ものの数秒で。


 鳥羽さんと湊も戻ってこない。作戦のために天束さんの所在を確認せずに逃走したのだろうが、皮肉にも虚無を生むだけになった。つーかアイツら完全に僕に丸投げするつもりだったのかよ。


 とりあえず湊に連絡入れつつ、僕は天束さんを追った方がいいよな。彼女のことだしあんまり遠くには行ってないだろう。天束さんは運動からっきしだからな。


 でも、何で逃げたかは大体想像がつく。鳥羽さんがソロ行動を提案したのが仇になったな。大人しく部長の忠告に従っていればこんなことにはならなかったのに。 


「とりま、緑地公園回ってみるか」

 

 僕は緑地公園内のハイキングコースを捜索がてら散歩することにした。周辺の住宅街を周ってもよかったけど、このハイキングコースは一本道で分岐がひとつしかないので捜索は楽だ。


 途中に廃教会とその奥に洞窟が見えたが、血迷ったのではあるまいと素通りした。その間に湊にメッセージを送り、状況を説明した。


 湊の方から天束さんに連絡取っているらしいけど、未だに返事はないみたい。それどころか、電話しても出ないそうだ。


 ちょっと待てよ、強姦に連れ去られたとかないよな。彼女のことだから人一倍そのような輩に絡まれそうだ。


 な、ないよな。この辺りは治安も悪くないしそういった輩は比較的少ない。


 二十分くらいでハイキングコースを抜け、住宅街に戻ってきた。このままズラかるのもいい気がしないので公園の外縁を周ってみる。ここら辺の道は公園が太陽を遮ってくれるおかげで日陰ができて涼しいな。


 日陰、日陰か……


 これはアニメのような考え方だが、陰キャは日影が生息地と言ってもいい。最近そのようなアニメ見たしな。


 まて……だ、だとすれば、あの洞窟に……


 いやないない!アニメだぞ!


 しばらくして、住宅街の道路脇にそれはあった。

 森の中にぽっかりと空いた大岩の穴。あれ、こんなところにも洞窟の入り口が。

 なるほどさっきの教会側の入り口と貫通しているのか。


 この洞窟も遊歩道の入り口になっているな。手すりなどの設備は新しく設置されたのだろう。入り口あたりの立て看板にはこんな注意書きが。


『洞窟内分岐多し迷子注意、まっすぐ進めば怖くない』


 ついでに街灯などは設置されてないので懐中電灯は必須らしい。市もそこまではお金を回せなかったわけだ。


 昔はこの洞窟に子供がたくさん遭難したらしいしな。その旨の張り紙が立て看板に掲示されている。

 洞窟内もこちら側は整備されているようで、なら逆転の発想で公園の一部にすれば迷子が出た時に目撃者が増えるという作戦か。


 ここで天束さんの立場になって考えてみよう。


 もし仮に何らかの理由で天束さんがここから、もしくは教会側から洞窟に侵入したとする。


 天束さんはスマホの充電があとわずかと呟いていたし、通常の嗜好を持つ人間であれば、数分で危険信号を受信し引き返すのだろう。


 が、よっぽどの冒険者、そして僕ら陰キャは大事が起きる寸前で回避することができない。自信のなさ故の優柔不断な性格が、いろんな引き金を引いてしまう。


 また子供が遭難したという事実を知っていれば、他人に迷惑を被るのを恐れてそもそも侵入しないのだろうが。歩きながらあれこれ考えまくった末に自責の念が限界突破してしまえば、たちまち自暴自棄になってしまう。その場合は理性はいとも簡単に崩壊し、投げやりに進み続けるのがオチだ。


 つまり、陰キャとは繊細な人間なんだよ、な──はっぷションッ!


 いろいろ考えたらなんだか心配になってきた。一応試しに行ってみるか……


「うぎゃっ!?!?!?!?!?」


 その後、洞窟の開けたスペースに差し掛かったところで小柄な人影がちょこんと体育座りしていた。

 スマホの光を当てながら近づいても反応がないので、肩をちょんちょんしてみると、その人影は奇声を上げて蛙のように飛びあがった。


 間違いない、天束さんだ。


「だ、大丈夫?」


「う、ううううううううううううううう!?」


 ははっ、やっぱここにいた……アニメって馬鹿にできねぇ。


「な、ななななな、なん、なんなでででで!?」


「落ち着いて!とりあえず深呼吸!!」


「う、うん」


「……」


「……」


 沈黙。


 深呼吸で平常心を取り戻したと思えば、天束さんは挙動不審に目を泳がせている。ペアワークなどで僕と対峙する際と同じ反応だ。


「あっ、えっと……その……」


「え、えぇ……っと」


 くそっ、この雰囲気じゃ僕まで話しづらいじゃないか!

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