第3話 ミッション1:学校一ノ美少女ト友達ニナレ 

 待ちに待った土曜日の午前十時。僕は学校の最寄り駅である中宮駅前のコンコースに併設されたパン屋の前にいた。


 本来の待ち合わせ場所は中宮駅前なのだが、僕の頼みでそこから少し離れたこちらで待機している。とはいえ一向に湊の姿が見えない。

 アイツは昔から遅刻癖があったが、今もそれが健在だとは。文学研の待ち合わせ時刻は十時半なので、いい加減そろそろ来てくれないと困る。湊なしで文学研と邂逅しても気まずいだけなので、その時は颯爽と帰宅させてもらうぞ。


「おまたー」


 よ、ようやく……って。


「どったの?目を逸らして?てか一緒に出かけるの久しぶりだねー」

 

 そう言って無邪気に笑う湊。その服装は六月ともあって、白のカットソーにベージュのキャミソールワンピ。陽キャらしく湊らしい向日葵のような夏コーデに、早くも眩しさで夏バテしてしまいそうだ。天束さんほどじゃないが、湊もモデルをやってる正真正銘の美少女。僕は湊からわずかに目を逸らしつつ質問した。

 

「と、とりあえず……説明してくれ……ない?」


 少なくとも今の僕と湊の関係性では暇でしょ?一緒に行こっ!とかいうノリじゃないのは一目瞭然。

 部長に助っ人として指名されたのか?いや文学研の部長とは面識もないしわざわざ僕が指名される理由も分からん。となると本当に謎だな。早く真相を教えてくれ。


「ごめっ!よっちゃんには、ここでひめちゃんとお友達になってほしくて!」


「あー……へぇーなるほどぅ……」


 ん?


「ん?って何?」


「ん?」


「ん?」


「ん?ん?ん?」


「よっちゃんバグった?」


 僕は正常だよ。ただ現実を受け止められないだけだ。


「ひめちゃんって誰のこと?」


「ひめちゃんはひめちゃんだよ」


「だから誰だよ」


「もぅーしらばっくれなくていいの!いっつも隣でみなたちの会話盗み聞きしてるでしょ!」


 盗み聞きだなんて心外だな。こっちは好きで聞いてるわけじゃないんだよ。耳が自動的に拾ってしまうんだ。


 それで、天束さんと友達に?お前は何を言ってるんだ?


「そん……でさ、よくこんなこと感じたりしない?ひめちゃんがみなたちと話してる時、なんていうか……しんどそうっていうか……」


「しんどそう?」


「あっ、悪意があって言ってるんじゃないよ!むしろそれが友達としてすごく申し訳なくて」


 そう言うなり湊はシュンと俯いてしまった。驚いた、湊に他人を思いやる心があったとは。


 でもまあ分からんでもない。三人の会話を側から聞いてるかぎり、天束さんはほぼ相槌をするだけでたまに無難な答えを返すだけ。よく考えればそれが当然である。


「なるほどね、だから同じような趣味や思考回路持ってそうな僕が友達になれと」


 部活動というのは人数が限りなく制限された空間で、相反する性格同士の人間がともにひとつの活動に励む場。となれば、自分には格式高いと感じる相手や性格的に絶対に交わることない人間ともコミュニケーションを取る羽目になる。だから僕は部活には所属していない。


 何を言いたいかというと、普通なら決して交わることのない天束さんと鳥羽さん、そして湊がひとつの部活動を通じて偶然知り合ったわけだ。

 僕は気の合うヤツや話の合うヤツ以外は交友関係を持たない主義だが、天束さんは誰でもいいから友達になりたい、または気が弱くて断れないという人種なのだろう。


 しかしそれが仇となり、湊や鳥羽さんの青春レベルについていけないわけだ。




「みなも鳥羽ちゃんもね!なるべくひめちゃんがイキイキしそうな小説の話題振ったりするし、そん時はひめちゃんめっちゃ饒舌になってくれるんだけど……みなが芸能関係の話しだしたら途端に口数減っちゃうんだ」


「情景が生々しすぎる」


「なに?」


「いやなにも」


 典型的すぎる陰キャだからこそのこの問題。同じ陰キャの僕としては天束さんの気持ちに激しく同感できる。それなら僕は天束さんの友達としては適任なのだが……


「か、仮にも天束さんは中三美……いや、クラスの人気者だよ?そんな人がクラスの隅っこにいるような僕と話し出したらそれだけで噂立たない?」


「問題ナシ!今のひめちゃんは容姿以外で話題になることはまずないから!」

 

「それならいいが……てかさっきからナチュラルに僕と天束さんのことディスってるように見えるの気のせい?」 


「そ、そんなぁ!至って真面目に話してるつもりなんだけど!?」 


 ともあれ、あの天束さんと交友関係を持つのに湊が協力してくれるって言ってるんだからな、しかも向こうの提案で。こんなの拒否する理由がない。


「しかし他に適任はいたと思うが、言っちゃ悪いが山田さんとか……」


「みなはよっちゃんにしか頼めないの!!!」


「っ!?わ、分かったよ、僕はどうすればいい?」 


「今日の活動は駅前でそれぞれグループに分かれた後にね、事前に計画した神秘っぽいスポットに向けて出発するの。そんでエッセイてゆーの?……を書くためにテキトーに散歩したりするんだけど、みながさりげなーく誘導して鳥羽ちゃんと二人で行動するから、よっちゃんはひめちゃんに付き添ってほしい」


 いきなり湊いなくなるじゃねぇか!僕ひとりで何とかしろってことかよ!!

 

「そんな難しいミッション湊にできるの?相手は仮にも秀才鳥羽さんだよ?」 

 

「大丈夫だ問題ない」


「……まっ、まぁいいや。けど、僕が合流する口実は湊が作ってくれよ。僕がここにいる意味本当に分かんないからね。頼むから二人が納得できる理由作ってよ」


「心配すんなって!もう考えてある」


 本当かよ。

 

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