こんなところに
高校時代のお友だちは一生モノ、っていうけども、当時の仲良しグループで頻繁に連絡を取り合っているのは今まさに向かいの席に座っている
出会いは高校一年生の時。私は北海道から東京に出てきたばかり。この引っ越し自体は父親の仕事の関連ではあるけども、あの高校に決めたのは、中学の頃にその時の友だち――あちらが結婚なされてしまって、旦那さんとの関係もあるだろうしと遠慮していたらそのまま疎遠になってしまった――から誘われて入った吹奏楽部を続けたかったからだ。三年間、私なりに頑張って続けてこれたし、高校ではもっと上手くなりたい。そう思って、全国大会の常連校に進学したのよね。……まあ、体験入部の時点で厳しすぎてやめちゃったんだけどね。
芦花とは同じクラスで、彼女から話しかけてきてくれて仲良くなった。大阪から東京に出てきたんだってさ。周りは東京生まれ東京育ちの子が多かったので(東京の学校だからそうよね)、おのぼりさん同士、というのも共通点だった。
「マリリンは何にするん?」
芦花は私をマリリンと呼ぶ。
「そうねー……」
案内されたテーブルの上でメニュー表を開く。テレビで紹介されていたパンケーキ屋に行こうと、先週芦花から誘われたのだ。
「この季節限定のにしようかしら」
メニュー表に挟まっていた別紙に載っているモンブランのパンケーキを指さした。芦花が「おやぁ?」と首を傾げる。
「初めて行くお店はレギュラーメニューを選ぶマリリンにしては珍しいチョイスやね?」
鋭い。付き合いが長いだけある。確かに、私は初見のお店で限定メニューを選ばない。定番メニューのほうが、そのお店の持ち味というか、そのお店が自信を持って通年で出しているものだからハズレはないじゃない?
「ふふん。イロイロあってね」
芦花はもちろん私と数馬さんの結婚式に出席しているし、何なら友人代表として手紙を読んだぐらいだ。積み重ねた信頼がある。だから、この場で、数馬さんの不貞行為から九くんとの出会いまでを全部話してしまおうと思っている。夫には内緒だけど、友だちになら話してもいいわよね。来週には日本を離れるのだし。どんなお土産がいいかも聞いておかなきゃだわ。
九くんのあの、光が見える、って話は、信じてもらえるかわからないわね。私もレース結果を見るまで半信半疑だったもの。九くんをここに呼び出してもう一度予想してもらってもいいのだけど、芦花は面食いだから検証どころじゃなくなっちゃうかもね。
レースは本当に七番のおうまさんが一着になり、二着は五番、三着が三番だった。九くんの十万円は十倍ほどに化ける。九くんは、原理は本人にはわからないっぽいけども、そういう不思議な力を持っているのだ。納得せざるを得なかった。
「ほーん。イロイロ、ねえ」
「芦花は何にするの?」
「わたしは、このブルーベリーのにするわ。店員さーん!」
注文を取ってもらうべく、芦花が手を挙げる。テレビ効果か、店内は賑わっていて、客層としては私たちぐらいの女性ばかりで――?
「あっ」
店内の奥まったところに、見覚えのあるスーツ姿の男性が座っている。向かいには、この間そのスーツ姿の男性の隣にいるところを目撃した女性の後ろ姿。背中がぱっくりと開いた、派手めなドレス。
「マリリン、セットの飲み物は何にするん?」
なんでここに?
今朝は『今日は飲み会があって遅くなるから』って言ってたじゃない。
「もしもーし、マリリーン」
ウェイトレスさんがパンケーキを一つだけ運んでくる。
一体、彼女と何を話しているんだろう。
ニヤニヤしちゃって。
「わたしはアイスコーヒーでええんやけど、マリリン?」
私は高校の友だちとこうやってランチしたいだけなのに、昌代さんから「あたしの昼飯は誰が用意すんの?」となじられた。そんなの、自分で用意してくださいまし。数馬さんは仕事のふりをして、あの女性とデートを!
「どしたんマリリン。顔が怒っとるで?」
……おほほほほ。
ここで怒りを爆発させては、いけませんわね。落ち着くのよ陽葵。計画は水面下で進んでいるの。ぎゃふんと言わせてやるんだから。笑っていられるのも今のうちよね。
「ココナッツミルクラテをアイスでお願いしますわ」
「甘いもんに甘い飲み物にするんやね」
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