カエルの子はカエル
日曜日。夫の貯金をFXに突っ込んで使い果たす計画の最終フェーズのために、出かける準備をしている。
「
まもなく預金残高ゼロになる夫の数馬さんが声をかけてきた。なお、昨日は休日出勤と偽って例の美女とホテル街にいたのを確認している。バレてない、とでも思っているのかしら。嫁に見つかるような場所で逢い引きなんて、むしろ見つけてくださいと主張しているようなものじゃない?
「どこに行くんだ?」
「あら。昌代さんと同じことを聞くのね?」
顔を洗っていたら昌代さんに「どこ行くん?」と聞かれたのが五分前のこと。親子って似るのね。
「おふくろからも聞いたんだが、最近外出が多くないか?」
外出はするでしょうよ。そのおふくろイコール私にとっての姑さんは家で食っちゃ寝しかしてないのよね。私がスーパーに足繁く通ってあげているのよ。もし私が働きアリのように運搬してなければ、毎日の食卓はかなりみすぼらしいものになるんじゃないかしら。
「芦花が東京に来てるのよ。彼女のお勤め先、大阪でしょ? ……高校の友だちと会うのはよくないことかしら?」
私も他の異性と会っている、としてしまうと『あまりよくないんとちゃう?』と芦花のほうから申し出があって、九くんのパスポートがつつがなく発行されるまでは『芦花と会う約束になっている』ということにする。ほら、芦花は結婚式にも出席しているぶん、数馬さんも顔を知っているから。
「ああ、あの奇抜なファッションの子か」
「奇抜???」
「僕らの結婚式の時、髪の毛ソフトクリームみたいに巻いてたし、なんかこんな、トラ柄のドレスだったじゃないか」
そういえばそうだったわね。私は慣れちゃったっていうか、まだおとなしいほうだななんて思ったものだけど。昌代さんも唖然としてたっけか。
「二人で出かけるのもどうかと思って」
またまたご冗談を。今更ご機嫌を取ろうたってもう遅いわよ。
「ここは親子水入らずで過ごしてくださいな」
邪魔者はドロンさせていただくわね。この家に置いている私の所有物のなかで、大事なものはすでに実家に送ってある。断捨離にもなってちょうどいい。
「昌代さん、温泉行きたいっておっしゃってたわよ。親孝行のいい機会じゃないの」
「温泉。いいな。ちょっくら連れて行くか……」
にしてもこの人、自分の口座は確認しないんだろうか。ガッツリ減っていっているのだけど。見たら「アレ?」とならないはずはないし、夫婦の共有財産としているから私に何か聞いてみてもいいと思う。
それだけ私のことを信じているのだとしたら、ちょっと良心が痛――いやいや、そのくせ数馬さん自身は平日でも土曜でも他の女といちゃついてるんだから、私は鬼にならないといけないわね。そうよ。私は被害者なんだって気持ちを忘れちゃいけないわ。姑からいびられ、夫からは騙される私。
この生活もそろそろおしまい!
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