わたがし

坂間 新

わたがし

 なぜ私は生きているのだろう。


 ふと気がつくと私はこんなことを考えている。

 心が病んで憂鬱な気分になったためというよりかは、哲学的な問いに近いのだと思う。特別なことが起こらないルーティーンめいた日々に意味を見出したいのだろうか。


 私はただの女子高生だ。見た目も勉強も運動も全てが平凡。住んでいるところも、栄え盛っている都会でもなければ、気持ちがいいほどの田舎でもない、大きくも小さくもない街である。そんな街で私は生まれた。そして、特に何事もなく両親に愛情を注いでもらってすくすくと成長し、今年で十七歳になる。

 別段の不便も満足もないうだるような日常の中で一歩ずつ歩を進めている。


「また考え事してる」

 隣できれいな浴衣を着てりんご飴を食べている陽葵ひまりに声を掛けられる。

「今日は夏祭りの日なんだよ?今日ぐらいは何も考えずに楽しもうよ」

「そうだね」

 そう返すことしかできない。

 なぜ私は生きているのだろう。また考えていた。

 手に持ったラムネはすでにぬるくなっている。


「あ、綿菓子がある」

 ラムネを飲み終わったころ、陽葵が弾んだ声を上げる。

 目の前の露店で綿菓子が作られている。小さな子どもが露店のおじさんから綿菓子を受け取り、幼い顔に満開の花を咲かせる。

「綿菓子食べようよ」

 それを見た陽葵が私の手を取り露店に歩を進める。私はされるがまま連れていかれた。


「いらっしゃい」

「おじさん、綿菓子2つください」

「はいよ、ちょっと待ってな」

 私は別にいいのだが、「せっかくだから」と陽葵は二人分のわたがしを頼む。おじさんが綿菓子を作り出す。何も見えないのに白いもやが割り箸に絡めとられ形作られていく。私はそれに目を縫い留められた。何かが私の中ではじけそうな気がする。


「はい、お待たせ」

「ありがとうございます」

 綿菓子を受け取り、お金を払う。陽葵と並んで露店が生い茂る道を歩く。隣で嬉しそうに陽葵が綿菓子をほおばる。それを横目に私も一口食べる。口に入れた綿菓子は作られた時とは反対に、すぐに溶けて形がなくなる。甘い。思わず口元が緩む。陽葵の方を見ると、陽葵はこちらを向いて微笑んでいる。その時、私は思った。


だから私は生きている、と。

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わたがし 坂間 新 @kokohashi

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