第150話
残念ながらブーケトスは秋津ではない誰かの手に渡ったが、彼女はにこやかな笑みを絶やさず披露宴会場へ。
「別に私はブーケ取らなくても結婚するもんね〜」
結婚するらしい。はて、初耳だがな。
「ね〜?」
そこはかとなく左側から圧を感じるのは気のせいではないのだろう。
袱紗を取り出して受付に備える。というか他に知り合いもいるはずなのに、俺たちが並んでることに何も言われないの、おかしいだろ。
「ね?」
未だに圧を放つ秋津を落ち着かせなければ。
「そうだな」
「言質、いただきました!」
その言葉に反論する前に受付の順番が来てしまう。
「本日はおめでとうございます。鹿見、鹿見有です。」
袱紗から取り出した御祝儀袋を手渡して、名簿に目を走らせる。
「私ってもう『鹿見ひより』になってるかしら」
「んなわけないだろ、あ行なんだからもっと上じゃね?」
そう言いながら目線を再び受付簿に目を落とすと、自分の名前のすぐ上によく知った名前が。
おい、どうしてあ行とさ行が上下で並んでるんだよ。粋な心意気とかないって。
「あ〜まだ秋津姓か〜」
「いいじゃねぇか、大事にしろよ。せっかく綺麗なんだから」
会場へと足を踏み入れながら呟く。
乾杯までの間に喉を潤すためか、バーカウンターに色とりどりのドリンクが並んでいた。
「そうよね、私もこの苗字気に入ってるのよ。変えることも吝かでは無いけれど!吝かでは無いけれど!」
ぱしぱしと俺の腕を叩く秋津。もう酔ってんのか?まだ何も飲んでいないのに。
「はいはいわかったって」
テーブルは予想通り彼女と隣同士、当時の友人たちで周りを固められている。受付や挨拶、余興と何かしらの仕事が割り当てられていなければこんなにも心に余裕があるものか。
乾杯、挨拶、ムービーやら余興やらがあってお色直し。
そういえば最初、披露宴の会場に入る時色とりどりのキャンドルを手にしたっけ。
これ新婦のドレスの色を当てられたら賞品があったりするのかな。
「ん〜〜何色だろね」
手元のキャンドルに目を落としながら秋津は呟く。候補は確か、秋津の持つ黄色、紫、俺の持つライトブルーだ。
いよいよ新婦の入場。
BGMも壮大になりドアが開くとそこには眩しいくらいの黄色を纏った新婦が。
「やった、当たった!」
そこ、普通は「綺麗〜!」が先に来るもんじゃないか。
「いいな〜ドレス。私、全色着たいもん」
やめてくれ、どれだけかかるんだ……というか何回お色直しするつもりなんだ。
「試着だけにしといてくれよ」
「むー甲斐性なし!」
お前、俺の何倍貰ってんだよ給料。
そうこうしているうちにも宴は進み、感動的な親御さんへの手紙でもって締めくくられる。
秋津と連れ立って外へ出る。
やはりいつもより彼女の身長が高いからか違和感があるな。
「ねぇねぇ、私が今何考えてるかわかる?」
「2つくらいある、であってるか?」
「おーやるじゃん。さすが旦那候補暫定1位」
馬鹿、他に候補がいてたまるかよ。なーにが暫定だ。
過去がどうかは知らないが、この先最後まで1位だろうが。
今まで屋内にいたからか、外の光に思わず目を閉じる。
手をかざすほどに昼下がりの陽射しは眩しくて。
「あれだろ、スーパーでちょっといいおつまみ買って、家で二次会だろ?後は……」
腕を組みながらうんうんと頷いている。
その度に肩から提げたカバンが楽しげに跳ねる。
「もうひとつは、まぁ……近いうちにな」
そう言って俺は、彼女の真っ白な腕をとって歩き出す。
西陽に照らされた2人の影は、未だに歩幅を変えないままだった。
◎◎◎
こんにちは、七転です。お久しぶりです。
今日の朝は少しだけ涼しくて、このまま秋に突入してくれと願うばかりです。
皆様いかがお過ごしでしょうか。
更新が遅れて申し訳ないです、行き帰りの電車で執筆できる姿勢でいられるかはギャンブルなもので……(満員電車並感)
早いもので150話、実文字数20万字くらいでしょうか。
こうやって細々ながら続けていられるのは、読んでくださるみなさんのおかげです。お話はまだ続けていきたいと思います。
気がつけば読者様も6,000人……!本当に感謝しかありません。
11月になれば、またカクヨムコンがあるのでしょうか。
暇つぶしがてら(作品更新しろよ)、私が書く時に考えていることとかまとめてみようかなと思いますが、需要ありますかね。
もし「こんなの書きたい!」と思ってて、まだ筆をとっておられないあなたの背中を少しでも押せたら。
ではまた!
通勤電車より愛をこめて。
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