第149話

 式は恙無く進んでいく。

 事前に確認した御祝儀も、お渡しは披露宴の前らしい。そりゃそうか、披露宴から来る人もいるだろうし。


 今回の式はキリスト教タイプ、神父様の前で神に愛を誓うらしい。

 新婦が入ってくるまでの新郎はどこか居心地が悪そうで、目が合うとにへっと笑っている。


「いいな〜〜」


 小声で隣の秋津が呟く。きらきらした表情で前を向く彼女から目を逸らす。

 なぜだか、今は顔を見れなかった。


 なんの間違いか俺たちは親族席のすぐ後ろ、しかも真ん中に近いところに座っている。

 一般参列者のわいわいとした雰囲気からは一歩引いて、どちらかと言うと親族のみなさまのしっとりとした空気に呑まれている。


 不意に俺の膝の上に手が置かれた。

 と、同時に礼拝堂の扉が開いて新婦の入場だ。つくづく、今日は晴れてよかった。まるで2人を祝福するかのように、細い光がステンドグラスを通って俺たちの頭上を照らしている。


「わぁ綺麗」


 ため息混じりの秋津の声。

 ゆっくりと歩いてくる新婦、周りがスマホを構えているのを見ると現代って感じがするな。


 脇目も振らず新郎の元へと進む姿は中々に胸を打つものがあって。


「あのドレスって重いだろうなぁ、歩くの大変そうよね……鍛えなきゃ」


 となりでむんっと意気込む食欲モンスター。鶏胸肉とかがいいんだろうか……なんてすぐご飯のことを考えてしまう俺も相当毒されている。


 やがて指輪の交換、誓いのキスと式は佳境へ。


「私は教会がいいな〜有くんは?」


 拍手の音が鳴り響く中、彼女が耳元へ口を寄せる。手は膝の上に置かれたまま。


「俺はどっちでも嬉しいよ」


 想像するに、和装でも洋装でも秋津は綺麗なんだろう。悔しいことに。


「へへっ」


 嬉しそうに鼻を鳴らすと、彼女も新婦に花を添えるべく手を叩き始めた。


 式は終わって俺たちは外へと誘導される。これがあるから晴れなきゃ困るんだよな。

 2人の通る道を花で満たしていく。春になれば桜が自然の

花吹雪をくれるんだが……前にどこかでそんな景色を見たような。


 直後、膝裏に衝撃。


「今別の女のこと考えた?」


 まったく、脳みそ全部透けて見えているんだろうか。


「まさか」


「そうよね?」


 花吹雪は止まない。

 新郎新婦が通り過ぎた後も拍手の音が空へと昇っていく。


 カシャ、という音に振り返るとカメラマンさんが俺たちを撮っていた。


「最後のムービーで使いたいんですが……」


「ええ、構いませんよ!」


 ずいっと1歩前に出た秋津がにこやかに答える。そのまま俺の腕を取った。


「良かったらもう1枚撮っていただけませんか?」


 なんという図太さ。

 式が始まった時、今日1日は自分の人生なのに自分が主人公じゃない気がして不思議だなんて思っていたが、この食欲モンスター様には当てはまらないらしい。


 引きずられるままカメラに収まる俺たち。もちろん満点の笑顔で。

 こんなもので最後のムービーが少しでも良くなるならお安いものだ。


「今度は私たちが……ね?」


 ドレスの裾を揺らして彼女は振り返る。

 唇に人差し指を当てた表情はやっぱり大人っぽくて。


 これから開催されるであろうブーケトスの行方を見るべく、俺も秋津に続いて新郎新婦の元へと向かった。

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