第148話

 まったく、今日が暑くなくてよかった。夏の結婚式なんて家を出る前にどれだけ支度しても、着く頃には全て水の泡となるのである。

 それが例えタクシーという大人にだけ許されたチート移動手段を使ったとしてもだ。


「はぁ〜着いたわね〜自分で運転して来るとお酒飲めないから、こういう時はやっぱりタクシーに限るわね」


 う〜んと伸びをしながら彼女はアスファルトにヒールで降り立つ。

 目の前にはクリーム色の大きな建物、何度来ても結婚式はその雰囲気に圧倒されるな。


「えーっと、入口は」


 スマホで招待状を確認していると、スタッフの方に声をかけられる、


「本日、結婚式にご参列でしょうか?」


「あ、はい」


 パンツスーツに白い手袋、スカーフを巻いたその姿はいかにもスタッフ然としている。

 にっこりと愛想良く向けられた笑顔に心も晴れやかになる。やはり結婚式はこうでないと。


 次の瞬間、腕に軽い衝撃といつもの香り。


「結婚式で浮気とはいい度胸してるじゃない」


 頬を膨らませた秋津が俺の腕へと抱きついてくる。おい、色々当たってるしセミの時期は終わったぞもう。


「挨拶しただけだろうが」


「鼻の下伸ばしちゃって!これは見張っとかないと……」


「参列者がこのシチュエーションになることはないんだよ、たとえフィクションだとしても」


「でも、でも〜!」


 ぽかぽかと体をグーで叩かれる。おい、意外と痛いからやめろ。

 社畜の身体は脆いのだ。主に胃とか。


 挨拶してくれたスタッフさんから離れて式場へと歩を進める。


「……お前しか見てないから」


 断じて彼女に負い目を感じている訳では無い。1年前に比べれば、自分の気持ちを伝えることも少しは上手くなっただろうか。


「ふふん、ならよし!」


 鼻を鳴らして満足気な顔をすると、俺の腕はようやく解放される。


 森の小道をイメージしたのだろうか、両サイドに並んだ緑に目をやりながらゆっくりと歩いていく。


「これくらい涼しい時期がいいな」


 頬を撫でる風。


「え、私たちの時の話してる?」


 戯言は一旦頭の奥へと置いておく。


 結婚式って何人で参列してもどこか寂しくなるんだよな。この日だけは誰がなんと言おうと自分は脇役で、景色に徹しなければならないところとか。


 それでも今回は主役級のオーラを持つ秋津と一緒に参加するから、少しはましになるだろうか。


 そんなどうにもならないことを考えていると、隣から手が伸びてくる。

 先程とは違って優しく、彼女は俺の首元に触れる。


「ほら〜ちょっと曲がってるわよ、かがんで」


 秋津は曲がったネクタイをくいっと整える。

 今日はいつもと違う結び方らしい……というか自分ではネクタイ着けないくせになんでテクニカルな結び方をしってるんだよ。


「そりゃどこかの誰かさんのネクタイを毎日締めるためじゃない」


「おい心を読むな毎度毎度」


「わかりやすい顔してるあんたが悪いのよ」


 ようやく離れた彼女は、そのまま俺の手を取ると、引っ張るように前へと進んでいく。

 ちゃんと御祝儀は持ってきただろうか。


 小さなバッグに入った袱紗を確認しながら、俺は置いていかれないよう彼女の後を追った。




 


◎◎◎

こんにちは、七転です。

どうにも最近仕事が忙しくて、帰りの電車で寝て、帰ったらお風呂に入って即就寝する生活です。

みなさんは結婚式に行ったこと、ありますか?

私は昨年4回、今年も既に2回は確定しています……。

そういう時期なんだなぁと。


友人の晴れ姿を見るのは嬉しくもあり、寂しくもありといったところでしょうか。

まだ夏が本番じゃないらしいので、どうぞお身体にはお気をつけください!


ではまた!

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