第142話 やっぱりパスタはハーフ&ハーフが最強
さて、俺が今立っているのは新居のキッチン。なんとコンロが3口もある……!
これで汁物作りながらメインを作りながら副菜まで準備できてしまう。前は2口でそこそこ便利だったが、やはり2人で暮らすとなるとコンロは多いに越したことはない。
「なんだか嬉しそうね」
「なんてったって3口だぞ!いやぁこれだけでもういい物件だ」
「もうあんたずっとキッチンにいなさいよ」
鋭いツッコミが食欲モンスターから入る。ここはツッコミだけでよかったと思うべきか。
外は夕暮れ。引越しの荷解きも程々に、俺たちは小麦粉の束と向かい合っていた。
「今日はパスタの気分〜!」
そんな秋津の一言から今日のメニューが決まった訳だが、せっかくのコンロを活かしたい。
「というわけで、パスタソースを2種類作ります」
「じゃあ私はあんたが料理してるの見てるわ」
「手伝わないんかい」
「これは同棲した彼女の特権だと思うの」
新居はカウンターキッチンになっており、高めの椅子に座った秋津がシンク越しに見える。
「恥ずかしいから言うなよ」
「2人だけだしいいじゃない」
改めて言われるとじわじわと実感が沸くというかなんというか。
誤魔化すように、甘さを打ち消すようにお湯に塩を振る。思ってる数倍入れないと意味無いんだよな。
「パスタソース、何がいい?」
ちゃっかりグラスにウイスキーまで用意してカウンターに腕を置いた秋津に話しかける。
「なんでもいい〜と言いたいところだけど、せっかく2種類作るんだしお互い1つずつ決めましょうよ」
うーん、俺もなんでもいいんだけどな。
ここはひとつ、長年の付き合いの俺が秋津の出方を予想して逆張りしてみるか。
「決まった?」
「おう」
お腹空いてるって言ってたしガッツリ系だろうな……と来れば俺はバジル系とかいっとくか。
多分外さないだろう。答え合わせするためにも、冷蔵庫から秋津が選びそうなソースの材料を出しておく。
「じゃあせーので」
カランカラン、と細い指で回したグラスから澄んだ音が聞こえる。
「「せーの」」
「ジェノベーゼ」
「ボロネーゼ」
やはり肉系、冷蔵庫から取り出したひき肉は間違ってなかったらしい。
「ふふん、私の出方を読んであっさり系にしてくると思ったから王道の肉系にしたわ!裏の裏を読んだのよ!」
これもう秋津検定1級でも取れるんじゃないか?
「やけに嬉しそうね。口角上がってるわよ」
自分の口の端に手を当ててむにーっと持ち上げる秋津。かわいいな。
「読みが完全に当たったからな」
「それを言うなら私もね」
ごそごそとカウンターの反対側から手が伸びてくる。
「はい、ごほうび」
そう言うと彼女は先程まで口をつけていたグラスをこちら側へ差し出した。
ちゃっかり新しいグラスに自分用にウイスキーを注ぎ直している。
「そっちの新しい方くれよ」
「だーめ!」
腕でばってんを作ると、グラスを持ち上げる。
「「乾杯」」
前と比べてまだ物が少ない部屋に、2人の声が反響した。
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