第140話
机に並んでいるのは炊き込みご飯、ぶりの照り焼き、だし巻きたまご、ほうれん草のおひたし、長ネギと豆腐の味噌汁と和食なラインナップだ。
ほんとに豪華だな……どうしたんだ。
出汁の香りに誘われて胃がきゅっと締まる。
お腹が空いているのは向かいに座る秋津も同じようで、キラキラした目で食卓を眺めている。
「お腹空いたろ、先食べててくれてよかったのに」
「あんたと食べたいから待ってたのよ、ばかね」
唐突に言葉の暴力が俺を襲う。
……まぁ、悪い気はしないんだが。
恥ずかしくないけど、みたいな顔してるがやんわりと頬が染まっている。
暑くなり始めた季節のせいだろうな。
「んじゃ、俺はだし巻きたまごから」
箸でつまんだ黄金色の直方体はぷるぷると震えている。
急げ急げと口元へ運ぶと、秋津からの視線を感じた。
「ん……何?」
「いいからいいから」
手を差し出してだし巻きを促す。
一口頬張れば、名前に負けずじゅわっと深みのある出汁が口を満たす。
続いて甘いたまごの味。
固めもいいが俺はぷるぷるのだし巻きたまごの方が好きだな。というかこれめちゃめちゃ美味しい。
思わず炊き込みご飯に手を伸ばす。
「美味しい、まじで」
「ふふ〜ん!よかった!」
どこか安堵の表情で、彼女も料理に箸を伸ばした。
「んで、なんなんだ」
「いや〜、この前どこかのかわいい後輩が作ったたまご焼き食べてデレデレしてたから、誰が嫁なのか分からせてやろうと思って」
ツッコミどころしかないじゃねぇか。
「そんなんじゃないって、あとお前嫁じゃないだろ」
「まだ、ね?」
そう、まだな。
ストレートに嫉妬したことを聞くとどこか心の裏側がくすぐられるような、妙に居心地が悪いような。
顔に昇ってくる熱を隠すように色付いた米を口に放り込む。
白米を食べた時の甘みとはまた別の味わい、にんじんやしめじ、ごぼうの食感がだし巻きとのコントラストを引き立てる。
油揚げも入ってる、これは嬉しい。
優しい味付けにも関わらず圧倒的な満足感。もはや炊き込みご飯だけで一食が完結すると言っても過言ではない。
「ほんと、美味しそうに食べるわね」
「まじで美味いからな、将来俺と……」
「やらないわよ」
脱サラして定食屋でも開かないかって、冗談も読まれていたみたいだ。
「まぁでも、味噌汁は毎日飲みたいって言わせるわ」
また恥ずかしげもなく。
「あ、てか引越しもうすぐだな」
話を逸らしにいったが無理あるか?
「まぁいいわ、乗ってあげましょう。実は私もうほとんど準備終わってるのよね」
「早すぎだろ、まだ1週間以上あるのに……あ、お前自分の部屋だけ片付けて俺の部屋で生活してるからか」
「ノーコメントで!」
話している間にもお皿の料理たちは姿を消していく。
お腹が空いていたとはいえ早すぎだろ。さすが食欲モンスター。
食欲も満たされたところで味噌汁に口を付ける。
あぁやっぱり。
自分で作るのと同じ味がする。
こんなことが嬉しいだなんておかしいだろうか。確かに毎日飲みたいし飲ませてやる。
……口には出さないが、まだ。
彼女と視線が合う。
不敵に笑う彼女は俺の考えなんて全部わかっているんだろうか。
喉は乾いていないはずなのに、俺の手はコップを探した。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
朝晩の寒暖差が激しい日が続きますね、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
そういえばそろそろカクヨムコンの結果発表でしょうか。
私も更新しながら何作品か読んでいたので楽しみです。自分の推している作品が本の形になってお店に並ぶのって、他では得られない嬉しさがありますよね。
お話は変わりまして、別作品も連載しているんですが、やはり働きながら毎日更新するのはかなり難しいですね……恥ずかしい話、これ全部スマホで書いてるんですよ。通勤電車の中で。
というわけで今からお仕事行ってきます。
ではまた!
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