第133話 花見で一杯②

「よっ!有くん!」


 手を軽く振って彼女は俺の隣に腰を下ろす。


「お前またやりやがったな……!」


 通りで素直に送り出してくれると思った。後で自分も来るんだから関係ねぇよな。

 それならむしろ一緒に行けよもう。


 家を出る前はもこもこのパジャマだったくせに、今は黒いスキニーパンツに淡い色のニット、髪はバレッタで止めていて動きやすそうだ。


「おぉ、、、ほんとに下の名前で普段から呼んでんだな」


 小峰さんが感心したかのように手を鳴らす。

 いやほんと止めて欲しい、公開処刑じゃねぇか。


「それじゃ、メンバーも集まったことだし始めましょうか」


 相澤さんが始まりの合図を出す。こうなれば我ら社畜、動かない訳にはいかない。


 後輩ズが買ってきたものを並べていく。唐揚げにハンバーグにシュウマイ、サラダにフルーツ盛り合わせ……。

 ほんとこういう時性格が出るよなぁ。どれを誰が買ってきたか一目でわかる。


「みんな缶持った?それじゃ、今年度もよろしくね。乾杯!」


「「「「「乾杯!!!」」」」」


 西陽がビール缶に反射する。

 彼女の、まるでここにいるのが当たり前かのような横顔は心底楽しそうで。


 ふと秋津と目が合う。

 持ち上がった口の端が少し動く。


「ね、楽しいね」


「まぁ、否定はせん。お前がいるとは思わなかったが」


「またまたひねくれちゃって。こういう時は素直に楽しむものよ、愛しの私がいることだし」


 どこまでいっても彼女には勝てないんだろう。


「こら!そこ!イチャつくな!少なくとも俺の目の前で!」


 小峰さんの勢いのある声が飛んでくる。

 うわ、あの人もうビール空いてんじゃん。ちゃっかり鈴谷君が次のお酒をスタンバイして置いてるのがいじらしい。

 

「イチャついてないです、同僚にこんなとこ見られてメンタル終わってるんですから。もう勘弁してください」


 推定鈴谷君が買ってきたであろうハンバーグをつまむ。

 少し冷えたハンバーグはそれでも、肉汁のガツンと来る旨み、デミグラスソースのコクが混ざりあって口が幸せだ。

 昔作って貰ったお弁当を思い出す。


 口の中に肉の味が残っている間に手に持ったビール缶を傾ける。

 うーん、最高。


 付け合せのブロッコリーにもお箸を伸ばすと、隣から同じようにお箸が。


「おい、これ俺の」


「いーや、私の方が早かったです〜〜」


 身体をぐっと押されて争奪戦に負ける。あぁ、、、肉汁を吸ったブロッコリーが……!


 小峰さんの前に次々空き缶が並んでいく。

 もう鈴谷君も供給を諦めてる、かわいそうに……。


「あ、そうだ」


 食欲モンスターが珍しく口火を切る。

 リュックをごそごそ漁ると、タッパーを取り出した。


「私も参加させてもらうのに何も無いのも……と思って、いくつか持ってきました!」


 おいそのタッパーと中身、俺の家の冷蔵庫で見たことあるぞ。

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