第124話 海に月まばら⑤
side:秋津ひより
真ん中の水槽を取り囲むよう壁に配置されたガラスからは、ペンギンたちを見ることができた。
茫然自失で立ち尽くす彼らに紛れて、すみっこで足をバタバタさせているペンギンが1羽。
眉間にシワがよって真剣な顔をしているのは、残業中の彼みたいで可笑しくて。
隣に立つ表情の和らいだ彼を見て未だに夢なんじゃないかと思う。
2人で出かけて腕をとる、こんな日が来るなんて聞いたら大学時代の私はびっくりするだろうか。
「なぁ、あれうちでごねてるお前みたいじゃね?」
先ほど見ていたペンギンを指差しながら、彼は挑発的に話しかけてくる。
「何言ってるのよ失礼ね。あんたでしょ、残業中の」
そもそも私は彼の家でごねたことなんてないし。
「うるせぇ、もっと鬼気迫ってるわ」
くつくつと笑いながら彼はつぶやいた。組んだ腕を通して彼の呼吸が伝わってくる。
会社では「鹿見くん」って呼ばなきゃいけないし、こんな時くらい甘えてもいいんじゃないかしら。
各地方ごとにブロック分けされた水槽を覗いていく。進む歩幅は彼のおかげか私の癖か、ぴったりと揃っていた。
脚の長いカニとか色とりどりの魚とか、人間からしたら考えられないような身体も、彼らからしたら当たり前なんだろうな。
不意に暗い水に反射した自分の顔が目に入る。だらしなく下がった眉尻に薄く弧を描く唇、5年前よりも確実に光が灯った目。
あんまり自分の顔を見るものでもないとすぐに目を逸らすが、昔毎朝見ていた顔とはあまりにも違う表情に感慨深くなる。
この階をひとしきり見終わったところで腕時計に目を落とす。
「あ、イルカショー始まるんじゃない?行きましょ!」
せっかく来たんだからイルカも見たい。できたら至近距離で。
あの空中のボールを鼻で突いたあと水にダイブするのとか迫力あって好きなのよね〜いくら私でもできないし。
そういえば前回彼と来た時は雨が降ってイルカショー見れなかったんだっけ。
その代わりゆっくり中を見て回れて楽しかったけど。
久しぶりに水族館に来たくなった本当の理由はイルカショーでもおっきなぬいぐるみでもない。
今は失くさないよう財布に入った鍵を思い浮かべて、私は彼の腕を引っ張った。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
3月に入りましたがいかがお過ごしでしょうか。
最近更新ペース遅くない? そう思ったあなた、正解です。遅いです。というか働きながら毎日更新してる作家さんはバケモンです。崇めましょう。
皆さんに報告したいことがたくさんたくさんたくさんあるんですが、小出しにしていきますね。
実は4月から転職します!残業がないところだといいな(大声)
カクヨムコンの途中に人生いろいろありすぎて大変でした。転職もそのひとつです。
引越しとかはないのでまだ耐えてるんですが、事務系の手続きが大量に……というか決算関係や引き継ぎやら……。
幸か不幸か3月末あたり、絶賛溜まりに溜まった有給消化中に友人が結婚式を挙げるそうで。今月もばたばたしそうです。
そろそろ桜が咲きますね、みなさまどうか一瞬の花見シーズンをお楽しみください。
ではまた!
昼から飲み屋に向かってる七転より。飲むぞ飲むぞ。
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