第119話

 秋津が詫びピザを宣言してから、俺たちの行動は早かった。

 早速タブレットで検索、ソファに並んでメニューを凝視している。


「うーん…ガッツリしたの食べたい」


 まるで反省の色が見えない。

 確かにこれから人に会う予定もないし、肉!ニンニク!みたいなピザ食べたいな。


「やっぱりサラミとかニンニクとか乗ってるのがいいよね〜〜」


 脳みその大事な部分が繋がってしまっているんだろうか。

 思考回路が似通っていることに悔しさと、ほんの少しだけ嬉しさが滲む。


 ただ、肉食べたいって言いながら俺の膝を摘むの早めて欲しい。俺、食べられてしまうんか…?このままだとついに本当のモンスターを世に解き放ってしまう。


「有くんもお肉な口でしょ」


「何も言ってないんだが」


 膝から手を離すと、指を俺の前で振る秋津。

 チッチっと口を鳴らしてナンセンスだみたいな顔するな、腹立つ。


「分かってないわね有くん。私は最早あんたが何考えてるのか分かるのよ。今は「腹立つなこいつ」とか思ってるんでしょ」


 怖すぎる。

 図星だって言うのも悔しいから、目の前で揺れている指をどけると、頬をむにっと突いておく。


「あ〜いけないんだー!そうやって誤魔化すの!嬉しいから私は許すけど」


 最近どんどん隠さなくなってきたな。とはいえ、うちに来る頻度はむしろ落ち着いている。

 嵐の前の静けさみたいでちょっと不安だが、一人の時間も大切にしたい俺としては大変助かる。積読を消費していかないと。


 あーだこーだ言いながらも無事ピザを注文、タブレットを机に置く。

 数秒の沈黙。

 彼女がぐぐっと身体を伸ばしながら俺の方に倒れ込んできた。


 目の前にはサラサラの茶髪、甘い匂いと微かに聞こえる息遣いが耳朶を打つ。


「どうした、なんかあったか?」


 一応、一応聞いておく。


「んーん、せっかく同じ家で仕事してるのにくっつけないの寂しかった〜なんて思ってないもん。クールビューティだし私」


 語るに落ちたな。

 そこはまぁ、恥ずかしながら俺だって彼氏だし。

 20代も後半になってこんなやり取りするとは思わなかったが。


 甘えられるのも悪くない。

 普段はもっとめんどくさい甘え方してくるから、毎日素直だったらいいのに……いや、俺がもたないからめんどくさいくらいがちょうどいいのか?


 頭に手を乗せる。


「ピザ来るまでな」


「ん」


 自分から頭を擦り付けてセルフなでなでされている食欲モンスターは、こんなでも会社では社運を左右する営業成績トップなのだ。


 インターホンがなるまでの少しの間、俺は大きな猫をむにむにとあやすのだった。

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