第118話

「この会議、うっかり録画できてなかったことにするわ。あなたしっかり議事録とってるだろうし」


 そう言ってカラカラ笑いながら相澤課長が退出していった。助かった…が、致命傷だなこれは。

 他のメンバーがいないタイミングで良かった。


 さて、問題の映り込みモンスターだがさっきから静かだ。何をしてるんだあいつは。

 気になるがまだ仕事中。向こうが電話している時に俺が物音でも立ててみろ、あいつと同じになってしまう。


 気持ちを切り替えてディスプレイに向き合う。

 別に怒ってはないが、今後のスタンスを伝えておく為にも一旦話し合う必要があるな。


 まぁご飯でも食べながらでいいか。


 時刻は18時、華々しく退勤。

 在宅勤務時は残業ができない。まぁ無限に働けてしまうしな。

 俺としてはむしろ在宅の時に残業して帰宅0秒の恩恵に預かりたいんだが。


 在宅で残業できないということは、あいつも今日は終わりのはず。

 PCをシャットダウンしてBluetooth接続のキーボードやマウスの電源も切る。これ忘れると次の日テンション下がるんだよなぁ。


 スリッパを履いて寝室へ。

 コンコンと扉をノックする。もし仕事で手が外せないならまた後でにしようと待っていると、向こう側から開かれる。


「おつかれさん」


 声をかけるとしゅんとした秋津が身体を扉に隠しながら顔だけこちらに覗かせていた。


「お疲れさま、ごめんねさっきは」


 こちらの様子を窺いながらぼそぼそと口にする。


「まぁ仕方ない」


 ノブを押してドアを完全に開ける。

 秋津はたたたっと俺の横を通り抜けてキッチンに消えていったかと思うと、すぐに戻って来た。


 ベッドの上に正座すると、手に持った袋をこちらに差し出しながら身体を折る。


「これは…お詫びの品です!」


 手に握られたのは、いつか謂れ無き罪で俺が糾弾された時に買ってきたのと同じ、シュークリームだった。

 こう、確かに何か渡されると怒りにくいな。怒ってるわけじゃないんだが。

 それはそうとして。


「お前仕事中にコンビニ行ったな?」


 どうりで静かだったわけだ。

 ぷひゅ〜と鳴らない口笛が間抜けに耳を通り過ぎていく。

 隠す気がないのかあまりにも隠すのが下手なのか。


「今回は相澤課長しかいなかったし許すが、次は頼むぞ」


「やっぱりシュークリームって偉大ね…」


 小声でもそもそ呟いている。


「何か言ったか?」


「んーん、何も!お腹すいたしご飯食べよ〜!」


 許された瞬間この切り替えである。…まぁいいところなのかもしれないが。なんか納得いかないな。


「ご飯どうするよ、食べたいものある?」


「んー、せっかく家にいるんだし買い出し行きたくない!ということで!」


 勢いよく立ち上がると拳を振り上げて宣言する。

 そこ俺のベッドだろうが。


「ピザを頼みましょ!私の奢りよ!」

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