第116話 在宅お昼はカレーピラフ

 なんで昼休憩に帰ってきてんだこいつは。


「おい仕事はどうした仕事は」


「昼から在宅にした!私ってば行動が早い、こういうところも好きなんでしょ?」


 だるい、だるすぎる。1を聞いて10を理解する人間が優秀だとはよく言うが、1聞かれて10喋るやつがあるか。

 確かにそういうところも好ましいとは思う…思うが絶対に口にはしない。


「お前外回りないの?今日。というか営業課って在宅できるんだ」


「あー!だめなんだ差別!営業課だって資料作ったり処理回したり事務仕事あるし!」


 じゃあほとんどないだろ。というか外回り行って初めて事務が発生するんだから営業行けよ。


「ほう…あれで事務とな」


 必要最低限の記載も確認もない書類の山たちが頭に過ぎる。

 俺の地雷を踏んだと勘づいた秋津はじりじりと後退した。


「な、なんでもないよーだ!そんなことよりおひるおひる!」


 おっとあまりに酷い書類たちを思い出したせいで忘れていた。


「なんで帰ってきたか理由は後で聞くとして、とりあえず飯食うか」


「何作るの?私手伝うわよ」


 お手軽にパスタにしようかと思っていたが、秋津もいるならガッツリ食べられるものにしようか。


「うーんパスタにしようと思ってたが…」


「パスタ!いいじゃない、ミートソース?カルボナーラ?」


 皿に盛られた料理が頭に浮かんでいるのか、今にも涎を垂らして近寄ってきそうだ。

 それだと本当に食欲モンスターだな。


「や、お前も来たことだしカレーピラフとかどうだ」


「うわ!天才…?告白するのは遅いくせにご飯作る時だけは決断早いんだから」


 近寄ってきてうりうりと指を突き立ててくる、うざい。

 つんつんしてくる彼女の指を手で払うと、そのまま腰を掴んでリビングの方向に向ける。


「昼から在宅ならPCとか準備いるだろ、あと俺15時から会議、ぜっっっったいに声を出すなよ」


 一応、一応釘を刺しておく。果たしてどれくらい守ってくれるか。


 気を取り直してキッチンへ。

 取り出したるは冷凍の野菜たち。今のスーパーはみじん切りになった状態の野菜が冷凍で売られているから便利だ。


 相棒ことフライパンに油を敷いて、細かくなった玉ねぎや人参、ベーコンにコーンを投入。

 リビングの方ではごそごそと音が聞こえる。あれ、コンセントの位置知ってるよなあいつ。


 玉ねぎとベーコンの色が変わってきたら塩コショウで下味をつける。

 次いで米をフライパンに入れる。昨日の残りがこんなところで活躍するとは。


 具材もパラパラと馴染んできたら、大本命カレー粉を突入。

 部屋にスパイスの匂いが一気に充満する。もちろん換気扇は回しているが、これ昼休み終わっても残ってそうだな。


 最後に小ネギを散らしてちょっと多めのコショウを振ると、完成。


 時間にしてほんの数分、お腹が空いているのも相まって目の前のカレーピラフが食べたくて仕方がない。


「できた?とってもいい匂いするんだけど、罠?」


「罠だよ罠、お前を嵌めるためのな!」


 脱兎のごとくこちらに近寄ってきた秋津の頬をむにっと挟む。

 美味しそうなものがあればこいつはどこにでもいくから、外をふらふらしないか心配だ。


 少し熱を持った彼女の顔を解放すると、2人で食器を準備していく。

 カチャカチャとお皿やコップ、スプーンの擦れる音が部屋に響く。

 何も話さないが、この時間が案外好きだったりする。


 やがてダイニングテーブルに並んだ料理を前に俺たちは手を合わせた。


「「いただきます」」

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