第115話

 在宅勤務、それは社畜たちの憧れ。

 我が社も感染症やらもしもの時に備えて在宅勤務制度を導入している。


 時刻は8時過ぎ、本日俺は在宅だ。

 平日のこの時間に家にいるって、なんだな不思議な感じがする。


 俺は、というか事務課は基本的に全員出社しているが、経理や総務などの面々は稀に在宅しているイメージがある。


 人事が統計をとっている勤務体系のデータによると、事務課の在宅勤務は脅威の0%、この会社始まって以来1度もない。

 なんなら鈴谷君と春海さんは在宅できることを知らなかったまである。


 そこでお偉いさんから指示が出た、一旦誰か実験台として在宅しろって。

 管理職である相澤課長は無理、小峰さんは家で仕事したくないと駄々をこねて拒否、後輩ズは出社しないと処理できない業務が多いから難しい。


 消去法で俺になったってわけだ。というか小峰さん拒否るなよ…何歳なんだ。大方会議の時に部屋が映るのを嫌がったんだろう。掃除しないといけないし。


 まぁ俺なら確かに仕事も慣れてぱっぱと進められるし、一人暮らしだから適任か。


 ベッドから身を起こして伸びをする。


「ん〜〜〜ねみぃ」


 腰を捻りながらPCの電源をつける。ぶぉんっという音ともにいつものログイン画面。

 自宅でこのディスプレイを見るのちょっと嫌だな。


 今日は企画関係で昼過ぎから会議、それ以外は年度末の処理だな。

 チャットを眺めているとポコン、ポコンと俺宛へのメッセージが。


『鹿見さん、在宅なのに恐縮です。この案件なんですがここからの処理どちらが正しかったか教えていただけると幸いです。』


『お〜〜い起きてるか!在宅マン!』


 あ〜〜これか、春海さんから来たチャットはややこしめの処理についての質問、小峰さんからは起きているかの確認。

 これだけでも2人の真面目度の差がわかってしまうな…春海さんはまだ始業時間じゃないのに働いてるし。残業代出ないんだからどうせ働くなら終業後にすればいいのに。


 小峰さんへはスタンプだけ返信し、春海さんのために処理の仕方を書いていく。

 こんなやりとりも出社してれば数秒で終わるんだけどなぁ。


 自分の好きな音楽をかけられるのは在宅の特権である。

 淹れたてのコーヒーを啜りながら仕事を進めていく。


 いつもだったら営業やら総務やらが事務部屋に来て聞くようなことも、全部チャットで流れてくるから中々に忙しい。

 やっぱり明日からは出社しよう。在宅だと歩かないから身体もなまりそうだ。



 アップテンポな曲を流しながらPCに向かうこと数時間、そろそろお昼だ。

 家だと作って食べても1時間かからないうえに出来たてを食べられるってのはいいところだな。どうしようか、パスタでも作るか。


 チャットのアカウントを離席中にしてキッチンへ向かうと、玄関の方でなにやら音がする。

 あれ、何か宅配でも頼んでたっけ。


 息を潜めて待っているとバーン!とドアの開く音。

 やべ、この感じあいつか。


 間髪おかずに予想通りの声が家に鳴り響いた。


「もう有くん、先に言っといてよ!私も在宅にしたのに!」


 そこにはやけに重そうな鞄をもったスーツ姿の食欲モンスターが佇んでいた。

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