第113話
年度末もきわきわ、社内も妙にザワついてきた。何度経験しても、このずっと急かされているような雰囲気に慣れないな。
しかしなんだか普段より心が軽い気がする。
外は晴れ、午後の春っぽい穏やかな気温が街ゆく人を照らしている。
「おい鹿見ぃ〜最近機嫌いいな」
鬼のような速度でキーボードを叩きまくる小峰さんが絡んでくる。
これはあれだな、頭使う処理終わったから休憩しようとしてるな?まぁ俺も粗方めんどそうなのは終わらせたしいいか。
「そうですか?昔からいつも機嫌いいつもりですが」
「んなわけあるか。2年目だったか営業課が無茶言って大量の処理発生した時般若みたいな顔してたぞ」
あ〜懐かしい。あの時は本当に営業課の部屋を爆破してやろうかと思った。
俺よりブチ切れた相澤さんがドスドス地面を鳴らしながら乗り込んでいったから、逆に俺は冷静になれたんだが。
「あと最近妙に帰り早いよな」
「それは小峰さんもでしょ〜」
2人ともキーボードを叩く手は止めず、画面から目は離さない。
俺たちの残業が少し、ほんの少しだけ減ったのには理由がある。
後輩ズ2人がすごい勢いで成長したからだ。
顔を見合せて頷き合う、まぁ2人とも考えることは同じか。
「行くか」
「そうですね、偶には先輩らしいところも見せますか」
連れ立って来たのはコンビニ。先程の会話で後輩たちが頭に浮かんだので、先輩風でも吹かせようと甘味を見繕いに来たのだ。
鈴谷君はあぁ見えて甘いもの大好き、春海さんは言わずもがな。
実は相澤さんだって昼ごはん後にスイーツを嗜んでるところを俺は見逃さない。
どうせみんな頭に糖分欲しいでしょこの時間。
「小峰さん、せっかくだしみんなで食べません?」
「あ〜それもいいか、どうせ俺たちは今日残業だしバチは当たらんだろ」
そう言って俺たちはプチシュークリームの詰め合わせを購入、そそくさと会社に戻る。
社内のエレベーターが珍しく混んでいない。営業課は出ずっぱり、人事やら総務やら経理は年度末の処理にあえいでいるはずだ。
「あの秋津さんに彼氏ができたんだってな」
どうしてこうストレートに俺の鳩尾を殴るような質問をしてくるのか。
というかあれか、これ聞きたくて誘ったな外に。
「ほんとに彼氏なんですかね、機嫌いいだけでしょ?」
「それが実はな、クリスマスやバレンタインとかのイベントの日はいつもすぐ帰ってたらしいんだよ」
あいつほんと、話題が尽きないよな。
去年のクリスマスの早朝マフラー事件やら先日のガトーショコラを思い出す。
「まぁ僕には関係ないっすね、同期ってだけですし」
「忘年会の時のあれ見たら勘ぐりたくもなるぞ」
追求をどう躱そうかと思案していたら丁度よくエレベーターが停止する。
あれ、事務課はもう少し上のはずだが。
扉が開いて乗り込んできたのは、バインダーを抱えた秋津ひよりその人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます