第84話
「ほらほら早く行くわよ」
追い立てられるようにドアを閉めて鍵をかける。クラゲはいつもより激しく揺れている。
「待てって、お前がキャリーケース持ってこないからだろ」
男の一泊出張なんて大した荷物にならないのに、こいつが家に来た時「キャリーケースに2人分詰めましょ!」とか言い出すから遅くなってしまった。
早歩きで道を歩く、冬はどうしても荷物が嵩張るなぁ。というかこんなにいっぱい何を持っていくんだ。
聞いたところで教えてはくれないだろう。
早歩きといっても間に合う時間ではあるため、彼女に歩幅を合わせる。
出張先で私服を着ることはないはずなのに、秋津はばっちりよそ行きの格好だ。
ロング丈のコーデュロイスカートに白いふわふわしたニット、流石にコートは仕事で着てもおかしくないものだが…。
腰部分をコート付属のベルトで締めているからスタイルが強調されている。この腰の細さ、折れてしまいそうだ。
「何よこっち見て」
「いや、腰が細いなぁと……」
見ていたのは事実なので否定はしない。
「えっち」
「うるせぇ。もっとご飯食べても……いや、今でも食べ過ぎだな、少なくとも現状維持で」
「失礼しちゃうわ、まったく」
ぺしっと手をはたかれる。
最寄り駅の改札を抜けてホームへ上がる。幸い乗るはずだった電車はまだ来ていない。
呼吸を立て直すよう息を深く吐くと、まるで煙草を吸っているかのように目の前を白く染めていった。
如月、冬はもう沢山という気持ちはあれど、まだまだ寒い。秋津が家に来た時には少し明るかった陽も既に沈んでしまった。
ひんやりとした夜はどこまでも静かで、これから出張に行くなんて思えない。
プシューっと音を立ててドアが開くと、大量の人が降りてくる。そうか、定時で退勤すればこれくらいの時間になるのか。
吊革に掴まって電車に揺られる。目の前の座席には揺れに合わせて頭を振っている秋津。
「晩飯どうする?新幹線で食べるか?」
「んー…」
聞いているのか聞いていないのか分からない返事、こいつ睡眠不足か?
前に垂れた彼女の髪も揺れる、暴れて隣の人に迷惑がかからないよう、丁寧に耳にかけた。
閉じた瞼がゆっくりと開かれる。
「……おはよう、有くん」
そのまま俺の手を両手で握りしめて首元に添える。
「枕にするな、返してくれ俺の手を」
「いいじゃない、この電車に乗っている間だけだから」
うとうとと頭を振っているが、もうすぐ乗り換え駅に着く。
まぁもう少しならば…つくづく甘いと思うが、俺は自分の手の所有権を手放した。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
みなさん、お仕事や学校は始まってますよね……?(圧)
出勤の時電車が空いていて不思議でした。
おかしいなぁ、平日のはずなのに。
今年はなるべく残業が少なくなるよう祈ってます。
ちょっと色々とありまして更新頻度が落ちるかもしれません。毎日更新されていたらこいつ頑張ってるなとこっそり思っててください。
ではまた!
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