第64話 仕事納めは豪勢に
凝ったあしらいが施された箱を受け取った瞬間、事務部屋に香ばしい匂いが立ち込める。
社内のいたるところで歓声があがっている。寿司に御膳、ジャンクなところだとピザを頼んだりするらしい。
食欲モンスターこと秋津さんからは寿司の写真が送られてきた。というかなんで社内チャットじゃなくてプライベートのスマホ宛なんだよ。
『さっき相澤課長が来た時に有くんが営業課に怒ってるって言ってたけど』
『どうだろな』
なけなしの牽制をしておく。
『私書類出してたよね……?』
残念ながらこいつ、仕事はできるのだ。期限内に書類も提出するし不備もほとんどない。毎回絡んできて面倒なことくらいだ、怒りたいのは。
『正直お前は営業課の中でもトップレベルにマシなほう』
『良かった〜!お寿司も美味しく食べられるわ!また後でね!』
やはり食欲に頭を支配されてるな。というかそれを聞くためだけに寿司の写真送ってきたのか?残酷だ…。
とはいえこちらも負けてない。
まずは相澤さんにずっしりとした箱を渡し、次いで小峰さん、そして後輩たちに配る。
後輩2人がソワソワしている、まぁ気持ちは分からんでもない。この匂いは正直暴力的だ。
全員に行き渡ったところで相澤さんが一言。
「今年もお疲れ様、よくやってくれたわ。大きなプロジェクトが2つあるにも関わらず、通常業務も滞りなく進んだ。ひとえにあなたたちのおかげよ。」
そんなそんなと声が上がる。自慢げにしているのは小峰さんだけだ。
「年度末には決算期も控えているから、各々こまめに仕事は消化しておくように」
首が取れるほど頷いている後輩たちはやはり微笑ましい。今年度も地獄が待っているが、頑張ろうな。
「それでは、いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
今年最後の職場昼ごはん、蓋を開けて最初に見えるのはこんがり焼かれた大きな鰻である。こいつの匂いがさっきから鼻を蹂躙して仕方がない。
早速箸を入れると、外側はパリッと中はふわっとした感触が手に伝わる。
まずは鰻だけを口へ運ぶ。甘辛いタレに特有の旨みが絡んで絶品、もうこれを食べるために生まれてきたと言っても過言ではない。
口に余韻が残っているうちに色付いた米をかき込む。しっとりというよりは少し粒だった米が、残った旨みを喉へと運んでいく。ほんと、なんて贅沢なんだ。
本音を言えば辛口の日本酒をきゅっと飲みたいところだが、残念ながら忘年会はまだ6時間先のことである。
事務課の面々たちも似たようなものである。みな鰻の魔力に取り憑かれたかのように無心で箸を口に運んでいる。
残りも半分になったところで赤だしをいただく。コクが深く香りがいい。甘みの強いタレを更にひきたてて箸が進む。
最後は大きめに残した鰻とひと口の米、あっという間に無くなってしまった。うーん、今度自分で焼くのも挑戦しようかな。
全員が食べ終わると熱いお茶で一息。最終日の午後は掃除である。部屋自体は営業課と同じ広さなのにこっちは5人しかいないから大変だ。
ごみを袋に入れて立ち上がる。ぐんっと伸びをして最後のやる気を振り絞る。
「やりますか、大掃除」
この後の忘年会を楽しみにしながら、俺は机の上を片付け始めた。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
今日は仕事でまぁまぁしんどい案件があります。これが投稿されている頃には職場でしんだ目をして倒れていることでしょう。
さて、仕事納めまであと2週間。いかがお過ごしでしょうか。中高生の方は短めの冬休み、大学生の方は長めの冬休み、社会人の方は一瞬の休みにご実家とか帰られるんでしょうか。
私は度重なる忘年会があるため、ずっと肝臓が苦しそうです。
今年やろうと思っていたリストを早急に消化せねば。
寒暖差が激しいですね、どうかお身体には気をつけてお過ごしください。
ではまた!
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