第60話 聖なる夜には定時退勤を②
いつものようにクラゲが揺れて、お馴染みの照明のお出迎え。秋津は一旦家に帰るそうだ。買い出しはもう昨日のうちに済んでいて、あとは作るだけだ。
定時退勤したとはいえ夜は夜、さっさと作ってしまわなければ。
今日の晩ご飯のメインはシチューである。冬っぽさ、というかせっかくだからクリスマスっぽい料理が食べたい!という秋津の希望によりこうなった。
普通のシチューもいいが、今回はひと手間加えるつもりだ。20代も後半だが、ついついこういうイベントは楽しみたいと思ってしまうのだ。
さらに今日はなんとチキンも用意して大盤振る舞いだ。さっき帰り道すがら某白ひげの似合うおじさんがいるお店で買ってきた。
手洗いうがいを済ませて鞄を置き、ジャケットをハンガーにかけてクローゼットへしまう。
私服に着替えるとキッチンへ向かう、そろそろあいつが来るか?
ピンポーンとインターホンが鳴る。寸分違わず来る時間を予想できてしまうのが嬉しいのか憎いのか、急ぎ足で鍵を開けにいく。
「やっほーおじゃまします!」
何やら色々と荷物を抱えた秋津がドアの前に立っていた。両手が塞がってるから鍵を自分で開けずにインターホンを押したのか。
一旦帰宅して着替えたのか。
今日の彼女は袖がだぼっとした赤色のニットにロングのチュールスカート、髪はサイドで編み込んでいた。普段は下ろしている髪がまとめられているから、形のいい耳とピアスが見える。
くそ、端的に言ってかわいいな。
「いらっしゃい、今から晩作るからリビングでゆっくりしててな」
「ありがと〜、でも私もお手伝いする〜」
俺の返事を待たずに横を通り過ぎてリビングへ向かう秋津。
再び手を洗うと俺は冷蔵庫から食材を取りだしていく。にんじんに玉ねぎ、じゃがいも、奮発して買った牛肉、そしてパイシートだ。
「おーい秋津、鍋と切るやつどっちがいい?」
「ん〜じゃあ鍋で!」
「はーい」
食欲モンスターは鍋の番をしてくれるみたいだ。という訳でまな板を用意し、野菜をひと口大に切っていく。
切った野菜たちをボウルに入れていくとそのまま彼女がサラダ油を敷いた鍋に入れていく。
大方切り終えたところでサラダを作る。この間俺たちはほとんど無言だったが、むしろそれが心地よかった。
待ちきれなくなったのか、秋津が自身の荷物をごそごそしている、というか本当に荷物多くない?何持ってきたんだこいつ。
笑顔でキッチンに戻ってきた彼女の手にはワインのボトルが握られていた。あれ、これデジャヴュだな。
「ふふん、今日もいいやつ持ってきたわよ」
「それどっから出てきたんだよ」
「実は営業で大きめの会社行ったら、懇意にしてくれてるお偉いさんがくれたのよね」
「営業職の特権だな」
「それでね、ちょっとだけこの前飲んでみたらとっても美味しかったからあんたと飲みたいと思って…」
「お、おう、ありがとうな」
ストレートに言われると何とも気はずかしい。おかげでぼそぼそとした返事しかできなかった。
きゅぽんっと音をたててワインストッパーが外れる。
「この前こっそり値段調べたら凄かったわよこれ。期待しなさいな」
「ハードル上げるなぁ」
サラダを作り終えた俺は後ろの棚からワイングラスを取り出すと秋津に渡した。
「あんた、いつにもまして楽しそうな顔してるわよ」
「イベント好きだからなぁ」
なみなみと注がれたワインに映る楽しそうな彼女の顔を見ながら、グラスを合わせる。
「んじゃ、今日もお疲れ様でした!」
温かいオレンジ色の光に照らされたキッチンに澄んだガラスの音が響いた。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
クリスマス会、丁寧めに書こうかなと思ってます、
私も鹿見くんと一緒でイベントの雰囲気が好きなので…!
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