第59話 聖なる夜には定時退勤を①

 時刻は18時、事務部屋の面々は珍しく1人残らず帰り支度をしている。というか俺が定時退勤するのが珍しいのか、鈴谷君と春海さんがチラチラこちらを窺っている。


「あの残業魔人鹿見といえども、流石にクリスマスイブは定時で帰るんだな。女か?」


「たまたまですよ、仕事が終わったので。あと変な名前付けないでください。流行ったらどうするんですか」


 小峰さんからのキラーパスを躱していく。実はここ数日はいつにも増して業務の処理スピードを上げていた。


 そう、今日はクリスマスイブ。しかも金曜日だ。相澤さんと小峰さんは家族サービス、鈴谷君は実家に帰るとかなんとか。


 相澤課長も小峰さんも俺が残ると思っていたのか、別々のタイミングで「今日は早く帰るから戸締りだけよろしく」って言いに来たのには笑ったな。


「あ、あの鹿見さん…!」


 もう既にコートに身を包んだ春海さんがこちらへ近付いてくる。


「ん?どうしたの」


「私、今日はクリスマスパーティなので!」


「そうなんだ、若いっていいなぁ。楽しんでね」


「はい!男の人は来ませんから!」


 そう言い残すと彼女はたたっとエレベーターの方へ駆けて行った。


「そんなに急がなくてもいいのに…」


 鈴谷君も彼女に続いて事務部屋を後にする。結局最後は俺なのか。

 電気と暖房を切って部屋を見渡す。PCとコピー機の電源がすべてOFFになっていることを確認して扉を閉める。今年もあと少し、来週からももうちょっとだけ頑張るか。


 この後待ち受ける晩ご飯を思い浮かべて自然と口角が上がる。

 そんなことを考えていたらエレベーターが1階に着いたことを知らせてくれる。


 会社の1階にあるカフェに入り、テイクアウトでカフェラテを買って外へ出た。なんだか無性に甘いものが飲みたくて。


 口から漏れる息は白い。18時過ぎだというのに辺りは真っ暗だ。


 柵にもたれかかってビジネス街を眺める。雪は降っていないものの、街路樹に掛けられたイルミネーションが冬を主張している。


 手袋にマフラー、帽子にコートと色とりどりに彩られたこの季節の街が好きだ。明後日になれば年末に向かって徐々に落ち着いていくんだろう。


 大通りには人の波、みんな早く帰って家族なり恋人なり友人と過ごすのだろうか。ふと秋津の顔を思い出す。


 定時退勤しろって言ったのはあいつなのにまだ会社から出てこねぇ。一緒に帰ることになったから近くで待ってるんだが…。


 会社ビル1階のカフェで時間を潰そうかと思ったが、彼女と合流して帰ってるところでも見られてみろ、元カノとかいう痛々しいネタを掴まれてる俺の忘年会がさらに灰色になる。


 さて日々頑張って良い子にしている秋津には、というか普段からお世話になっている彼女にはささやかながらプレゼントを用意した。

 が、あれいつ渡そうか。なんだか普通に渡すのも恥ずかしい気がする。学生の時もちゃんとプレゼントを渡したことないんじゃないだろうか。


 グレーのコートが愛しき我が社から出てきたのを見て、柵から身体を離した。少し焦りながらきょろきょろと周りを見渡しているのが可愛く思えてしまう、重症だな。


 まだほんのり温かいカフェラテを指先に感じながら、俺は青になった信号を渡った。



◎◎◎

こんにちは、七転です。

なんだかここ数日暖かいですね、身体がバグりそうです。度重なる残業でぶっ壊れた私の自律神経が更に……。


近況にも書いたんですが、今日飲み会があって更新できないなぁと思ってたら、なんか書けてしまったので更新です。


さてさてついに物語の時間軸が現実世界を追い越してしまいました…。年末のテンションで年始の話を書けるんだろうか私は。


後書きはこの辺にして私は飲んできますね、大量の酒を。(あ、もしよかったらTwitterフォローしてくださいね、@nana7_ten10です)


ではまた!

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