第56話 合縁奇縁も夏のまま
師走。師ですら走るなら、社畜はもうスライディングくらいはしなければならない。
まぁ後は来年やるか〜と諦めた仕事のことは頭の隅に追いやり、どうしても年内で終わらせる必要のある仕事にとことん向き合う1ヶ月だ。
休日にショッピングモールに行っておいてなんだが、実際は平日毎日残業続きである。
今日は加古のプロジェクトの打ち合わせ。事務の出番は計画を詰めて軌道に載せるまでである。……これ事務じゃなくて企画じゃね?
まぁなんにせよ、俺の仕事は新しいオフィスデザインの完成を見ることではなく、そこまでの道筋を整備することである。
先方の希望をどこまで叶えられるかが勝負どころだな。デザイン、負担額、納期、そしてコンセプトがメインの調整事項だ。
どれかを立てればどれかが沈む、資本主義社会の難しいところだと独りごちる。
今回の大きなテーマは、「融和」。
融和、つまり反発せずに共存し、混ざり合うことである。1人で作業する人がすぐに議論へ参加できるよう、また大人数での議論からすぐに1人での仕事に戻れるような設計とのことだ。
街とオフィスの融和も目指しているとかなんとか……これはデザイナー談だ。
定刻になり打ち合わせが始まる。実働メンツも度重なる会議で仲も打ち解けたのか和やかに進んでいく。
結局喧嘩する訳じゃなくて何かを一緒に作っていくわけだから、早々白熱はしないだろう。
ポコン、とチャットの通知がPCの右下を彩った。
『これ私らいる意味なくない?』
暇を持て余した夏芽からだ。まぁ俺たちは裏方だから直接何かの決定に関わることはない。がしかし、
『一応実働部隊で名前入れられてんだからサボるな』
『このタイミングでキーボード打ってるの、議事録とってるようにしか見えないから大丈夫でしょ』
『ほんとに議事録取らなきゃいけないんだから遊ぶなよ』
『どうせ録音あるし残業中になんとかするわよ』
おいおい仕事の仕方が同じじゃねぇか。さてはこいつも相当してるな?残業。
会議は踊らず進んでいく。さて、ここからが加古含む表舞台に立つ人間の腕の見せどころだ。どこまで譲歩するんだ?
半ば映画を観ているかのような気持ちで成り行きを見守る。
『そういえばさっき、エレベーターホールで飲み物買ってたら優しい美女と仲良くなったわ』
『おいおいこの会議の見せ場だぞちゃんと見とけよ』
『どうせ悪いようにはならないんだからいいのよ』
えらく仕事仲間を信頼しているようで。
まぁ俺も同僚達の仕事の腕は疑っていないが。なんやかんやでこの会社をここまで大きくしたのはこいつらなのだ。
『んで、その美女がどうしたんだよ。うちの社員か?』
『うん、なんか波長が合うというか話がわかるというか。それでこの後ランチに行くことになったわ、あとで社内もちょっと案内してくれるらしいの』
こいつと性格合うやつなんてうちの社内にいるのか?少し間を置いて同僚たちの顔を思い浮かべるが、ピンとくる人はいなかった。
というか外部の人間を案内するなよ。誰だ、そんなごり押しができるほど顔が利くやつは。
『そうそう、秋津さんって方なんだけど。ああいう人が仕事できるバリキャリって言うのね』
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