第55話
エレベーターのドアが開く。
朝ごはんを食べた俺たちは駅前のショッピングモールに来ていた。
「どこから見て回ろうか」
「ん〜買いたいのはそんなに高いものじゃないしすぐに決まると思うから、色々見てこ」
「よし、そうするか」
紅茶やお菓子、海外直送の食品等様々な専門店が並ぶ。入口から見た時に大量の色が目に飛び込んで来るのは楽しさを誘う。
こういう建物の構造とか配置とか、色々考えられてるんだろなぁとどうしても仕事目線で考えてしまう。
「有くん、あそこ寄ろうよ」
秋津が指し示したのは食器が積まれたお店だった。
中に入るとすぐに店員さんがこちらに来てくれる、休日出勤お疲れ様です。
「今日は何をお探しですか?」
ちょっと見に来ただけです、応えようと口を開くと
秋津に脇腹をつねられる。俺が今から何を言うか分かったのか?くっ、こいつ俺の脳内を…!
「一緒に使うお茶碗とかお箸とか見に来たんですよ〜」
いけしゃあしゃあと秋津が店員さんに告げる。一言もそんな話してなかっただろ。
「それでしたらこの辺りに置いてますのでごゆっくりご覧ください!」
案内された一角には様々な模様のお茶碗やお皿、お箸が並んでいた。それもすべて色違い2つ1組で。
「うわぁかわいい!どれにしよう」
「お前の買いたいものって食器だったの?」
「そうそう、もう鹿見家でごはんいただくこと多いから自分用のと、それとついでにいつものお礼ってことで有くん用のも買おうと思って」
「そんな気を遣わなくても……と言いたいところだが、それ置いたらお前ずっと俺ん家くるじゃねぇか」
「…このままスムーズに行けばなんなく家に入り込めたのに」
「もう今更だしなぁ、せっかくだしちゃんといいの選ぼうぜ」
「最近デレが多いわね……潮時?」
「その言葉、もし使うとしたら俺の方だろうが」
話しつつも目は並んだお茶碗に。うーん幾何学模様もいいが、モチーフがついてるのもいいな。
家にある食器たちを思い出しながらどれにするか考える。
ひょこひょこと色んなところにいってはサンプルを手に取る秋津が不意に戻ってきた。
「これとかどう?」
彼女が手にしていたのはくらげがあしらわれた、それぞれ赤と青のお茶碗だった。
正直めちゃくちゃかわいい。
「え、お前完璧じゃん」
「でしょでしょ〜私の第一候補はこれで!」
その後数分探してみるも、あのくらげのお茶碗より響くものはなかった。
結局それに決めようと話したところ、秋津は守るようにお茶碗を抱えてレジへ向かった。そうまでして俺に払わせたくないか。
無事、お目当てのお茶碗を確保してほくほく顔で店の外へ。彼女はまだウインドウショッピングしたいらしい。
階を変えて秋津がお手洗いに行っている間に、昨日の夜目星を付けていたお店に入る。ここまで約1分。
さっと目を滑らすと予め決めていた赤いマフラーを手に取った。値札は見ない、いつも買わせてばかりじゃ格好つかないしな。
素早くお会計、こんな短い距離で申し訳ないが別日に郵送してもらう。
今買ったことがバレるとからかわれるに決まってる。
なんとか平静を装って、先程別れたお手洗い前に駆けつける。よかった、まだ彼女も出てきていなかった。
合流した俺たちはまだまだ店を見て回る。雑貨に服、香水や本など様々だ。やっぱり大きめのショッピングモールがあると捗るな。
途中ランジェリーショップに一緒に入ろうと言われた時は断ったが。流石の秋津も無理強いはしてこなかった。なーにが有くんの好みを知っておきたいだ。
昼過ぎとはいえ季節は冬、眩しい光に照らされながらもポケットに手を突っ込んで帰路につく。
休日の午後は時間がゆっくり過ぎている感覚に陥るが、その実すぐに終わってしまう。
俺の少し前を秋津は歩いている。思えば学生時代から引っ張ってもらってばかりな気がする。今も声をかけてもらわなければ、残業の海に沈んでいたことだろう。
ずっと後ろから彼女を見ているからこそ気がつくこともある。そう、例えば彼女の鞄が家を出た時よりも大きく膨らんでいるところとか。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
この時間に投稿するのは珍しい気がします。
そろそろ受験の季節ですね。読者さんの中に受験生がおられるかはわかりませんが、もしいらっしゃったら無理せず頑張ってください。くれぐれも体調には気をつけてくださいね。
さてさて、なんとpv数が50万を突破しました……!多すぎて想像がつかないです。
みなさんが沢山読んでくださるが故ですね、いつも本当にありがとうございます。
★も♡もコメントも全てが励みです。
拙い文章ですが、これからもお付き合いいただけますと幸いです。
ではまた!
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