第49話 夏芽あいの独白

side:夏芽あい


 取引先の自動ドアが開く。先方から渡された資料は私の肩に重くのしかかる。もちろん電子データだから本当の重さはないんだけれど。


 それにしてもこのプロジェクトのはじまりには驚いた、先方の自己紹介で元彼が出てくるとは思わないでしょ。

 何が腹立たしいってあのぼけーっとした優しそうな顔が昔と変わってなかったこと、びっくりするほど仕事が早いこと、そして私にはもう興味がなかったこと。


 スタートアップの飲み会で無理やり2人で話したけど、昔のようにはいかないみたい。


 私自身、大学で彼と別れたあと彼氏がいなかった訳じゃない。でも料理をする時のあの楽しそうな顔、美味しいものを食べる時の幸せそうな顔を思い出すと、どうしても他の人とはその先に進めない気がして。



 駅近くの喫煙スペースに入る。最近は分煙のお店があるとはいえ肩身が狭い。

 押し込められたおじ様お姉様方と一服。挟んだ煙草のせいで指がその匂いになるのも実は嫌いじゃない。


 マフラーに匂いがつくからと、一旦外して鞄に入れる。

 ライターのダイヤルを勢いよく回す。ぱちぱちと上がる火花が寒空に映える。

 そういえば彼、指が痛くなるからってここ回すの嫌いだっけ。


 深く息を吐く。煙草なんて1口目が1番美味しいんだから。


 煙草も半分くらいになった頃、スマホが震える。

 相手は大学時代の友人だ。なんとも学生時代から付き合っている彼氏と結婚しますとのこと。

 つきましては……そこまで読んでメッセージアプリを閉じる。


 結婚か。大学生の時に何となく付き合った彼より、一緒にいて自然体で話せる人をいまだに見つけられていない私には縁遠い話だな。


 自宅に帰ったら資料整理と、次回の打ち合わせに向けて社内承認下ろす準備をしなければ。まったく、今日もサービス残業か。

 短くなった煙草を灰皿に擦り付けてから捨てる。


 駅まで歩きながらふと気がつく。そういえば結婚する友達の彼氏って、あいつと仲良くなかったっけ?

 気がつくや否や友人のメッセージに既読をつけて返信を打つ。


 せっかく繋がった縁だ、自分から切りにいくのもおかしな話じゃないか。

 幾分肩にかかる鞄が軽くなった気がした。


 次会うのは2週間後だろうか、それとももっと先だろうか。

 とりあえずはこの資料たちをどうにかしようと決めて、私は改札に向かう階段を下りた。



◎◎◎

こんにちは、七転です。突然寒くなったり暑くなったりと気候が情緒不安定ですがいかがお過ごしでしょうか。

私は月末の業務量に忙殺されています、エンドレス残業。

実はカクヨムコンの要項をやっとちゃんと読んだんですが12月が審査対象なんですね(遠い目)

この作品はまだ完結しませんが、12月に入ったら投稿ペースを上げるべく書き貯めを……と思っていたんですが、毎週毎週休日出勤で筆が進みません。


こっそりちまちま続けていくので、目に止まったら秋津さんたちのことを思い出していただければ幸いです。

あと、フォロワーさん3400人も……!ありがとうございます。私のTwitterのフォロワーさんの50倍以上ですね……。

鹿見くんと夏芽さんの共通の知り合いが結婚するらしいですよ、ではまた!

日曜日も働いていたはずなのになぜか今日も残業が確定しているオフィスより愛をこめて。

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